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2008年11月 8日 (土)

詩の紹介   「わが思うがままに」江 素瑛

(紹介者 北一郎)
 台湾系日本人の作品である。母親は台湾人時代から日本の短歌、和歌を愛読し、訓話や断片を書き残しているそうだ。江氏も、近年は日本語で詩文を書き始めた。
 昭和時代、台湾人でありながら日本人を強制され、日本語で詩を書き、詩集も出している詩人・陳千武氏とも交流がある。台湾には先住民がいる。陳氏は、先祖が中国大陸からの渡来人でありながら、日本人にされ、戦後は台湾で詩人活動をしている。
 青春時代に、日本人となった時に、西欧中心の文化・思想から解放し、大東亜文化圏をつくるのだというビジョンに感激し、戦友と共に理想に燃えた日本人精神時代があった。だが、その日本には、裏切られた。中国大陸文化に理屈を超えた郷愁を抱きながら、現在の中国を批判し、かつての日本人時代にビジョンをもつことの意義と、その言葉の優麗さに心酔し、落ちた偶像となってしまった日本を複雑な思いでながめているようだ。そして、それが現在の台湾人精神となって形にあらわれようとしている。
 江 素瑛氏の作品には、台湾人系日本人としての自己存在の意識が反映されている。
             ☆
「わが思うがままに」           江 素瑛

昔ながら中国では、朝顔のことを「牛飼いの花」という。
「牽牛花」と称し、田や山の雑草であった。歴史の変遷とともに、遣唐使が日本に持ってきた薬用の朝顔が観賞用になった。いまは日本の風物にはか欠かせない。品種も多い。元祖の朝顔を日本で育ててみた。一年目に咲いた花は中国朝顔と同じであった。その種を播いたら、風土のちがいだろうか、やや小ぶりになり、容姿に違いが出てきた。二年目は、風情が日本の朝顔になってきた。純粋種の花の栽培は思うようにならならい。きっと生まれた里の顔に戻ることはないのだろう。

思うおするようにならないこの世
台湾人がねがうように
「萬事如意」を願うこころ
我が思うがごとくに

思うようにならないと思いながら
今年こそうまく行くように
「萬事如意」を願うこころ
台湾人の年賀状の常套語
「萬事如意」には
悲しみがにじむ
                   「詩と思想・詩人集2008」(土曜美術社出版販売)より。
               ☆

 台湾の現在は、中国との一体化の流れがある。しかし、台湾人としての文化と自覚をもってしまった民衆は、「いつでも何があっても中国共産党は常に正しい」と反省することを知らない中国政府との同化に反発している。

 ちなみに朝鮮半島人も反省をしない。都合が悪くなった時に、いつも悪いのは他国である。それは中国と朝鮮半島に精神の同化があること示しているのだが、気がつく人は少ないようだ。国際的な思想の流れが、いつもそれを認めていくとは限らない。どの国も、その国際的な意識の情勢に左右される。

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