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2008年10月27日 (月)

同人誌「文芸中部」第79号(愛知県)(2)

【「立ちつくす季節」堀井清】
 堀井氏の作風は、文学的な気風に満ちた独自の表現性をもつ。ちょうど、音楽がつくりあげる時間の雰囲気を味わうように、読書する時間のなかに一つの雰囲気を作り上げるのである。雰囲気小説とでもいうのだろうか。作品のなかにもオーディオ装置の話が出てくる。ここで聴く音楽は、ラジオカセットやipodではいけない。ハイファイコンポーネントで、コンサートホールを上回るような、楽器の切れ味が、良くあじわえる装置でなければならない。
 主人公は、オーディオルームで独り、古今の名曲に聴くような、やや憂鬱症の男のタイプである。加齢による頻尿に睡眠がよくとれず、老妻と認知症になっているかどうかが、夫婦の話題になる高齢者である。息子夫婦と孫と同居している。
 家族で同居しているのは、独り暮らしに人からみれば、幸せそうだが、いざ当事者となればそうはいかいない。家庭のなかで、除外されるだけでなく社会から除外される存在となった立場を示し、いいしれぬ孤独感をもっている。
 過去の罪深い行為と、思い出さずにはいられない恥辱感が、思弁の展開をともなって語られる。何十年も生きているから、そのタネには困らない。後半では、調子を変えた2人称で、店のアルバイトの店員に採用して欲しいと申し入れるが、老齢を理由に断られるエピソードがあり、ついに店員から「あんた死臭しているよ」といわれるまでになる。若いときは、仕事の束縛から自由になりたいと切に願ったはずである。現在はその束縛を求めて仕事につきたいと願うが、それもかなうことがない。アウトサイドに立った人間の孤独を描いて終わる。自分なども社気的な存在の希薄となる昨今、これから自分は、どのような時間を過ごせばよいのか、選択の余地のない迷路のなかで、立ちつくすような思いをすることがある。読者である、自分自身にとっての問題提起と実感のこもった作品に読める。本誌には、作者の「ずいひつ~音楽を聴く」の連載があり、音楽とオーディオ装置と芥川賞作家・諏訪哲史氏の創作論に関する話がある。

【「光と影」井上武彦】
 直木賞候補になった経歴をもち、クリスチャンである作者が、遠藤周作との出会い、瀬戸内寂聴との交流、文豪といわれた丹羽文雄の主宰する文芸同人誌「文学者」に執筆するなど、文学的遍歴と信仰の葛藤を描く。そのキャリアを知ると、かなりの年配であることがわかり、その力量に感嘆させられる。職業作家になる道が目の前にありながら、そこに歩みを進めなかったのは何故なのか、別の興味も湧く。
 それに応えるように、瀬戸内寂聴から、作家になりたかったら「あなたは、家庭を捨てなさい。女房子供を捨てなさい。そして創作一筋に打ち込みなさい」と、諭される場面も描かれている。
 文学にすべてをかける姿勢を示すことが、編集者に支持される時代であったことがわかる。スポーツ根性と同じ精神主義である。
 井上氏はしかし、そうした決意というか、決断をしなければならないことに、ぴんとこない。そのときすでに井上氏が次元の異なる精神構造をもっていたことがわかる。「作家的根性」は作家になるには必要条件であるが、文学芸術的には、そうとは限らない。ただ、出世の手段としての職業作家になるという意味では、現代にも通用するとは言える。瀬戸内寂聴は、作家に出世したあとに出家してしまった。これは、作家道を歩んだ末の自然の流れかもしれない。
 現代でも車谷長吉のような「私小説作家的根性」の精神構造の作家が存在する。あと何年かするとユーモア小説の作家とされるのではないか、とも思われるほど時代錯誤に満ちた作風が、人気があるようだ。笑われてなんぼの大阪芸人の雰囲気に似て、人気の理由もわかる。
 それはともかく、作者は、60年安保騒動時代に労働運動のリーダーをしていたことも語り、宗教、文学、生活など、すべてが光と影の混沌のなかにあることを語る。
 まさに、その混沌のなかに、総合的な文学芸術の舞台があるのではないか、そのような示唆を与えてくれる力作であった。
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