同人誌作品紹介「りありすと」74号(東京都)
本誌は日本民主文学会東京南部支部誌である。同人であった芳賀庄之助追悼特集となっている。遺作の戦時中に特攻隊の基地となった知覧市を描いた「知覧行」絶筆が巻頭に掲載されている。左翼系であるが、純文学にミステリー、ライトノベルと混沌とした文芸の時代には、思想的にはっきりしたものが、かえって着実な文学の道を歩むような印象を受ける。
【「宿題」鏡政子】
戦前に満州にわたって、苦労をしたおばあちゃんに孫が宿題のテーマに、話を聞きにやってくる。孫にやさしく語る思い出話が、次々と展開される。国策として満蒙開拓女子報国隊に編入され、それに同調しないと、国賊扱いにされた雰囲気。少年義勇軍も結局、戦争に狩り出される。日本で食料不足だったので、満州にいけばおいしい物がたくさん食べられるといわれて、現地についてみれば、米は軍隊に徴収され、粗食しか口にできなかった実情。それでも、侵略民としての事実はかわらない経緯が語られる。昭和時代の語りべ的な意義がある作品。
【「新橋にて」仙洞田一彦】
労働運動の活動家であった、主人公は昨年末に定年退職し、地区の組合活動から離れてしまっている。そのなかで、過去の組合活動で、ガリ版刷りのアジビラ作成を長くやってきた。ビラは街頭でどんどん撒くので、次々と書き上げなければならなかった思い出がよみがえる。整理しているところに、新橋駅前で集会があると連絡がある。あまり気がすすまないが、やはり気にかかって、出かけてみることにする。現場では、集会に来た人々の数は多くない。かつての労働運動の盛んな時期と較べるまでもない。新橋から日比谷公園の野外音楽堂に集まると、初めて参加したと思われる労働者にまじって、過去の自分がガリ版を書き起こすときの鉄筆の音が耳に響く。小説のうまさは抜群で、現在社会の無思想的な混沌の現状を描く。
| 固定リンク
コメント