小説で泉鏡花文学賞に決まった横尾忠則さん(72)
泉鏡花は、江戸川乱歩やベルヌらと並んで好きな作家の一人だ。その名を冠した賞に決まり、「過去の受賞者はすごい人ばかり。僕は初の“ド素人”受賞者ですよ」。アトリエで、ちゃめっ気たっぷりに語った。
受賞作『ぶるうらんど』(文芸春秋)は、死後の世界をこの世にも似た穏やかで不思議な世界として描いた短編集。きっかけは、知り合いの編集者の「小説を書きませんか」という一言だった。「そのときはすぐ笑って断りました。でも、寝る前にふと気になって」。翌日、1編目を一気に書き上げていた。
兵庫県西脇市出身。かつてはグラフィックデザイナー、今は画家として、聖と俗、夢と現実が混在する独特の画風を確立し、世界的にも評価は高いが、昨年、「隠居宣言」。今は気持ちの赴くままに絵筆をとる。その合間につづった受賞作を、村松友視選考委員は「軽やかで柔らか。ここに今の横尾さんの精神の中枢がある」と評した。
次作について聞くと、「上手におだててくれたら、書くかも分からんよ」。古希を超えてなお少年のような笑顔を見せた。(文化部 金巻有美)(08年10月24日 読売新聞)
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