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2008年9月21日 (日)

同人誌作品紹介「胡壺・KOKO」第7号(福岡市)

【「鍵(キー)」桑村勝士】
 切れ味の良い、印象に残る短編である。主人の「ぼく」は、釣を好む。かなりの趣味人である。宮崎県のX谷の渓谷につりに行く。険しい山道で崖を登攀するようなところもあるらしい。そのなかで車のキーを失くしてしまう。それを運よく拾ってくれた地元に住む男がいる。その拾い主もかなりの釣好きと思われる。
 それが縁で釣の話になる。すると拾い主の男から、秘密の釣り場の存在を暗示する話を聞く。ぼくは、その暗示に心を動かされて、男の語った道筋をたどって秘密の釣り場に向かう。男の暗示を頼りに険しい道を登攀するが、その途中に下の大きな淵に、車のキーを落としてしまう。キーには浮きがつけてあるので、淵に浮いているのが見える。とてもそれを拾い上げられる状況にない。すると「そいつ」が現れて、キーを飲み込むのをみる。そこで、終わる。
 人間には、「そいつ」を釣ってみようと思う者と興味を持たない無関心な者がいる。それをテーマに短編小説としてうまくまとめているのに驚かされた。キーの拾い主の男が少ない文字数で、妙な深みをもって活きている。欲を言えば、ぼくのなかに「そいつ」と出会わざるを得ない人間的宿命感が薄い。登攀する山との対話的な描写でそれが表現できそうなきがしたが、それは読者の勝手な要望でしかない。

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