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2008年9月26日 (金)

同人誌作品紹介「胡壺・KOKO」第7号(福岡市)(2)

【「JUST」ひわきゆりこ】
 主人公の僕は、博士論文を提出中の大学院生らしい。微生物の研究室の教授の紹介でアルバイトを引き受けさせられる。額田家という旧名家の娘で、そろって離婚歴がある。そこで僕は遺伝子に関する専門的な講義をすることになる。
 僕には、同じフロワーで別の研究室にいる華澄という女子大学院生と深い交際をしている。華澄は会社経営者の父をもち、裕福な環境にある。交際はしているが、このままでいれば、それは在学中の恋愛に終わりそうな雰囲気でもある。お互いに自分のJUSTをもとめているが故に、そうならざるを得ない、というところである。
 主人公の自分のJUSTな姿を求める視線で、描いていることにより、周囲の登場人物が、何らかのJUSTを求める存在として表現される。アルバイト先の名家バツイチ姉妹もそのような、視線の色を帯びさせることで、ひとつの風趣を作り上げている。
 文章も作中の竹林に風が吹き渡るような、風通しのよい文体で水彩画スケッチの爽やかさを持つ。作者の安定したビジョンによく筆力がついてきている。さらに、人間関係における微妙な隙間を独特の感覚で表現し得ている。
 派手ではないが、独自の表現力をもっていて、才気を感じさせるところがいくつかある。僕が教授にレストランに誘われ食事する場面の教授の描写力は抜群。読みながら「ふむふむ。いい文章の仕事をしていますね」と言いたくなる。あれこれあれこれと書きながら、キャラクターを浮き彫りにしてしまうのと、ただあれこれ書いて、それだけで終わってしまうものとの違いがここにある。それが描写力というもの。まだ埋蔵された才能があるのではないか、と将来に期待を持たせる。いわゆる自分探しの一種かもしれないが、現代の教養小説のひとつの形を示している。

【「レバー」納富泰子】
 この作者、じつに恐ろしい物語を書けるものである。もし、まだ読んでいない人に、「この小説はどんな話?」と訊かれたら、「都はるみの『着てはもらえぬセーターを、寒さこらえて編んでます。女心の未練でしょうか、の歌のように、不気味なまでに不条理な、切実な女心の物語です」と答えてしまいそうである。
 軽口は、このぐらいにして、話は夫が肝臓を悪くして、今にも死にそうな境遇になる。ところが肝臓を移植すれば、助かるかもしれないというのである。妻である私は、それを知って自分の肝臓を提供することを決心する。もちろん全部ではない。誰もそれに納得する。そりゃそうである。人間はそれほど物事を深く考えない。
 そこで死ぬ運命にあった夫は、助かって健康を取り戻す。だが、肝臓を提供した妻の方は、ひどい後遺症と苦痛に悩まされる。そこで、元気を取り戻した夫にその苦痛を訴える。しかし、苦痛を理解してくれと言われると、恩があるだけに夫は、その声を素直に受けられずに、圧迫感を受けて、妻から逃げようとする。しょうもない夫である。そして、夫は妻に手切れ金を渡して離婚してしまう。
 そこでいろいろあって、妻の肝臓をもらって生き延びた夫は、再婚する。自分の肝臓をもった夫が新しい妻と楽しく暮らす、元妻に耐えられないのは当然である。そこで、夫の家庭につきまとうしかない元妻。仕方がないとは言え、じつに恐ろしいではないか。作者はそこで、プロメテウスの神話を例に取っている。たしかに残酷な境遇である。
 おまけに、その妻がある日、妊娠してしまうのだ。元妻に、現在の妻がそれを知った夫の態度を告げるのである。すると、なんともっと恐ろしい人間の闇が、そこに生まれていたのだ。自分は、あまりにも恐ろしくて、その先を紹介できない。もう、居酒屋でヤキトリやモツ煮は注文しません。

【「帰郷」井本元義】
 戦後、まだ炭鉱が重要な産業で、その後のエネルギー事情の変化に衰退する前のころ、父を落盤事故で亡くした若者が、東京に出て独り暮らしをするところから始まり、その後の急激な社会の変化に対応して活きてきた人生を語る。その間に、ある老婆を強姦して殺害した記憶があり、晩年にその老婆が街角に立っているのを見るという幻影的な要素を取り入れている。スピードのある筆致が、この日本が未曾有は速さで変化してきたかを、今更のように感じさせる。日本人が前のめりになって、過ごしてきたことへの立証にもなっている。あらすじ的ではあるが。末尾の、自分の生きてきた人生の時間への疑問の言葉は不用のような気がする。女のところで終わっていて良いと感じた。

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