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2008年9月 3日 (水)

詩の紹介  「存在」 小林 妙子

(紹介者 江素瑛)
「存在とはこのようなものだ 証拠が残されること」抜歯の跡で存在を確かめた作品です。人間とは、形態のあるもの。その映像や、声の録音などは、たとえそこに居なくても人間の実在が感じる。形態のないものは、いかなる努力しても、物としての跡は残らない。愛情や憎悪、過去の形態のない「存在」は、どうしたら証明できるのか、不思議といえば不思議。
        ☆
「存在」   小林 妙子
呼ばれたので/ドアを押した
少し奥まって/すぐ 行き止まりになる/診療室
麻酔の注射はちょっと/痛かったけれど/先生の技術はたいしたものだ
「おわりました」/舌の先で触ってみると/あったものが/確かにない
どかした という感じで/深い穴があいている/歯が一本/数分にして消えてしまっていた
ああそれでわかった/存在とはこのようなものだ/証拠が 残されること
仰向きに座る椅子が/考えごとをするのに/ちょうど良い傾斜だ

「地下水」188号より   横浜詩好会(08年6月 横浜市港南区)

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