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2008年8月 9日 (土)

豊田一郎・個人誌「孤愁」第4号(横浜市)作品紹介

【「虚飾」豊田一郎】
 主人公の「私」は、船会社に永く勤め、定年退職している。妻は亡くなっている。娘がふたりいるが、長女が費用を負担して、父親のために日本一周の10日間の船旅をプレゼントしてくれる。船旅の人たちは、老若男女の多くがカップルである。ひとり旅の「私」に、やはり一人旅で、富豪にみえる年配の女性が接近してくる。ふたりは老いらくの青春が火遊びか、肌を重ねあい、旅を楽しむ。その後、「私」は足を捻挫したときに治療に行った病院で、船旅の富豪らしき女性と再会する。しかし、その姿は、貧相でやつれ、船上での面影はない。あの船旅は彼女を雇っていたレストラン経営者が、退職金がわりに設定してくれたものだった。現在の彼女は皿洗いをしている。
 「私」は、その女性の人生と、いまは亡き妻の人生の類似点をみいだしながら、自分と妻の夫婦の関係とは何であったかを考える。
 「私」は自分の退職金を元手にして、長女と共同名義でローンを組み、マンションを買っている。そこで、知らない女性と生活を始めたことを嫌う長女からマンションを出ることを要求される。
 独立した娘と年金生活の父親の孤独を軸に、年配の男女の枯れた騙しあいを楽しむ風情がよく表現されている。書き流しているようで、伏線を用意し、さりげなく生かす。老年の現代人の、孤独を日常生活に取り込んで生活する精神を描いて、巧い。

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