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2008年8月29日 (金)

優美な散文芸術 倉橋由美子作品再評価

 「小説はごちそうだと思っていますから、おいしくないのは嫌。遊び心地になれる楽しい話を書きたくなりました」
 そう語りながら死の直前まで小説を執筆した倉橋由美子さん(1935~2005)連作綺譚(きたん)『酔郷譚(すいきょうたん)』が、死後3年たって河出書房新社から出版された。
 「桜花変化」から「玉中交歓」まで7編。魔酒の効能で、主人公の慧(けい)君が、現世と冥界(めいかい)を往還、時に女性に変化し、「歓を尽くす」。
 明治大学在学中の1960年に前衛短編小説「パルタイ」で注目された倉橋さんは、『スミヤキストQの冒険』『アマノン国往還記』など精力的に小説を発表し、反リアリズムの旗手とされた。しかし、90年に左耳に自分の心拍音が聞こえる難病に見舞われ、死をおびえる年月が続いた。ようやく病気を容認できるようになってから書いた本作では、前衛さは影を潜め、理知とペーソスで死後の世界までからりと見つめる。
 今年に入って倉橋作品は、直木賞作家の桜庭一樹さんの解説で『聖少女』(新潮文庫)が出るなど3冊が復刊されている。今月1日には都内の書店で〈倉橋ルネサンス〉と題するイベントが開かれ、翻訳家の古屋美登里さんと作家で東京大教授の松浦寿輝さんが対談した。松浦さんは、「日本では文学というと、自堕落な情念や人生の苦悩などが重視されるが、倉橋作品は知性にあふれ、文章が洗練された散文芸術。日本が中流志向に向かう時代には優雅で優美な倉橋作品はあまり受け入れられなかったが、中流崩壊の現代では、むしろ再評価されるのでは」と語った。9月には『暗い旅』が河出文庫から復刊される。(鵜飼哲夫)(08年8月12日 読売新聞)

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