« 中部ペンクラブ主催「全国同人雑誌会議」を徳島・三好市で | トップページ | 草思社、再開後の新刊2点を発売 »

2008年8月21日 (木)

江戸川乱歩ミステリー 今や「古典」

 岩波文庫に、日本の推理作家で初めて江戸川乱歩の短編集が収録された。また、長男が父・乱歩の足跡を追う豪華本も出版され、没後43年を経て日本ミステリーの父に改めて脚光が当たっている。(佐藤憲一記者)
 「岩波文庫で出す基準は古典として認められているもの。大衆文学も今は研究者の視野に入っており自然と決まった。十数年前だったらダメだったかもしれませんが」。19日に『江戸川乱歩短篇集』を発売した同文庫の塩尻親雄編集長は言う。
 ポオ『黒猫・モルグ街の殺人事件』(中野好夫訳)など海外ものは既にあるが、比較的歴史が浅く娯楽読物と見なされてきた日本の推理小説が、文学の古典と評価されたことは、画期的だ。
 初出の雑誌を底本に、1923年のデビュー作「二銭銅貨」から「D坂の殺人事件」、「屋根裏の散歩者」など代表的初期短編中心に12編を精選。乱歩の同様の傑作選は他の文庫にも多いが、森鴎外との比較論に始まり、大正末期の閉塞(へいそく)感や空虚感の中からの「乱歩登場」に文学や時代の転換を見ようとする編者の千葉俊二早大教授の批評的解説が付くのが古典文庫らしい。
 授業でも乱歩作品を取り上げている千葉教授は、「乱歩の頭の中だけにあった猟奇的犯罪が現在、現実にあふれていることの意味を考えたいとの思いもあった」と編纂(へんさん)作業を振り返る。<何の動機がなくても、人は殺人のために殺人を犯す>。
 一方、平井隆太郎『乱歩の軌跡』(東京創元社)の出版は、記録魔だった乱歩が残した『貼雑年譜』という手製のスクラップ自伝を手がかりに、立教大の社会学部教授だった著者が父の人生を読み解いた。
 少年時代は中国への密航を企て、成人後は造船所勤務、古本屋、漫画雑誌編集長、屋台のラーメン屋など目まぐるしく職や住所を変えた才気と移り気の青年時代やデビュー後の苦悩、人気作家の虚名を嫌った一面が浮かび上がる。
 著者は父親を<文学者肌と事業家肌という相反する二つの性格が同居していた>と洞察する。
 ミステリーの名編集者・戸川安宣さんは、今回の書籍化の実現は近年の乱歩の人間像への関心の高まりも背景にあるという。「隆太郎さんが社会学者としての公平な視点で父親を検証した意義ある本。今まで本にならなかったのが不思議なくらい」と話す。(08年8月20日 読売新聞)

|

« 中部ペンクラブ主催「全国同人雑誌会議」を徳島・三好市で | トップページ | 草思社、再開後の新刊2点を発売 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中部ペンクラブ主催「全国同人雑誌会議」を徳島・三好市で | トップページ | 草思社、再開後の新刊2点を発売 »