詩の紹介 「FOR SEOUL」外村文象
(紹介者・江素瑛
妻の生まれた土地を見ておきたいと思う。亡妻に対して抑えきれない想念がその旅の動機である。
そこに見たのは長い年月に残った日韓関係のしこり。のほほんと軽くみる日本人とは対照的にシコリの解き難い韓国現地の人々のこころである。加害者と被害者との気持ちの処理、許される側と許す側の心境はそう簡単に溶け込むことはないでしょう。
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FOR SEOUL 外村文象
FOR SEOUL KOREA/妻の生まれた土地を見ておきたい/妻の育った環境を知りたい/京城からソウルに名前は変わって/韓国の首都は発展を続けている/幼い日に良い思い出はなかった/そのことを私の目でたしかめたい/これまで生きてきた自分自身への/ご褒美の古希の旅行/好奇心を失わずに瑞々しい/感覚を保ちつづけたい/韓国人が解放されて五十九年/市役所には古い書類が保存されているか/日本人には好意的に接してくれるか
妻の家族が住んでいたのは/朝鮮京城府長谷川町百拾六番地/父親は製紙会社の役員だった/焼野原の大阪への引き揚げは/石炭船に乗ってMPに怯えながら/幼い日の度重なる環境の変化は/彼女を多感な少女に育てた/京城には良い思い出はなかった/だから幼い日に育った地を/訪ねようとはしなかった/<私は大阪で生まれた>と/クラスメイトにも語っていた/正直者の彼女がついた悲痛なウソ
長谷川町はいま小公洞となっている/ビルが林立する繁華街だ/日本人達は戦前 戦中は/街の中心部を占拠していた/「冬ソナ」のブームで韓国を訪ねる人は多い/日本の女性達は浮かれて歩いている/だが街の人達の反応はクール/日本人を歓迎してはいない/長い年月のシコリは容易に氷解しない/心を許して仲良くなるには/過去の悔恨が風化するには/これからも歳月が必要だ
詩集 「影が消えた日」より 07年 9月 東京・待望社
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