同人誌「視点」第69号(多摩市)紹介
本号は、清松吾郎「夢幻の舞」96枚、筑紫亮「ビバルディーを聴きながら」56枚、石川テイ子「邦子」20枚、矢田山聖子「おんな万事塞翁が馬・二章」37枚、香月映摩「赤い緒のわらじ・3」30枚、浜田雄治「コマチ(第4回)」57枚、萩照子の随筆、臼井明子の追悼・益真智、大類秀志「故・八橋一郎氏を偲んでー透明な糸」で構成されている。
これは編集後記から抜粋したもので、こうしてくれると当方には、大変ありがたい。
さて、そのなかで、大類秀志「透明な糸」が、頑固一徹な文学生活者の一面を描いて、一番面白かった。文中に「昭和46年8月『日本文学』竜野主宰が急逝、急遽私が発行を引き受けることになったが、同人合議の上で、翌年7月、昭和15年創刊の『日本文学』終刊号を発行。11月の「視点」として出発した。」とあるので、「視点」の発足がわかった。
さらに「その挨拶文を各方面に郵送した際、八橋一郎氏に挨拶文と一緒に(八橋氏の評論)「吉行淳之介論序説」の激賞の読後感も同封した。それに対する返信はなかったが、それ以来、37年間欠かすことなく、年賀はがき交換だけの……、どう表現すればいいのだろう。付き合い、交際ではないし、心の交流とでも言うのだろうか。」とある。
その他の作品、清松吾郎「夢幻の舞」は、純文学より、娯楽小説的な身勝手な男をめぐる女性2人との三角関係を描く。手法が3人称多視点で書かれているが、そこに乱れがある。長く一人称小説を書いていた人に良く見られる現象。簡単に書けばよいところを、長く書き、長く書くところが書いてない、という不満が出る。面白ければ、気にならないものも、話とセンスがありきたりだと、気になってくるものだ。
筑紫亮「ビバルディーを聴きながら」は、思想と人生を描いたやはり3人称多視点の小説。なんとなく、面白そうで興味をそそったが、後半は、わかるような、よくわからないような自殺した男の心理。
石川テイ子「邦子」20枚は、実際にあった女性の人生をモデルに書いたようだ。参考文献・井上源吉「戦地憲兵」とある。邦子という女性の人生をざっと整理してみた、という感じで意欲は感じるが、創作的な筆の伸びはいまひとつ。
発行所=多摩市永山5-4-9、視点社。編集発行人=大類秀志。
| 固定リンク
コメント