第5回小島信夫賞の村山りおん「石の花冠」を掲載。「季刊文科」41号
第5回小島信夫文学賞が「季刊文科」(鳥影社)41号で発表され、作品が掲載された。応募総数197編。最終予選では、本賞に青木笙子「『沖みどり』をさがす旅」、村山りおん「石の花冠」、中野睦夫「山の女」、朱雀遥「家愁」の4編。岐阜県在住者・出身者を対象とした岐阜県知事賞には間宮弘子「瀬音の彼方へ」、前田明彦「いちでらんらん」、吉村登「原発ジプシー異聞」、イトカ「秒針」の4編が最終候補作になった。
その中から本賞に、村山りおん(62才、東京都在住)「石の花冠」(作品社刊)。岐阜県知事賞に、間宮弘子(72才、横浜市在住)「瀬音の彼方へ」(新風社刊)、前田明彦(71才、横浜市在住)「いちでらんらん」(書き下ろし)の2作が決まった。
【選評抜粋】
☆堀江敏幸=小島信夫さんの御意思によって、今回から選考委員をつとめさせていただくことになりました。岐阜県の出身であり、小島さんがながく教鞭をとっておられた大学の、同じ校舎に勤務していたことが推輓の理由だと思われますが、文学的な親和もいくらかはあったかもしれない、と前向きに考えております。
さて、私は迷いなく村山りおん「石の花冠」を受賞作として選び出していました。
サウラ、トシン、ナスキ、アユリ、スミトウといった、カタカナで表記される男女の絡み合いを透明な筆致で描き出すこの作品の舞台は、どこか空気の薄い神話の世界におかれているような気がします。言葉はふわりと抽象の空に浮いているのに、地縁、血縁のもつ残酷さが、その自由な飛翔を許しません。心地よい矛盾です。生者たちの墓地を思わせる花冠の下の華やぎに、票を投じます。
☆ 吉増剛造=なかで、村山りおん「石の花冠」が、際立つ、……というか、宝石の稜角が不意に香りたつなと思わせるのは、作者の才気はもとよりのこと、その才気を尽くそうとする力そのものの顕現であり、一人の作家の誕生だと思う。
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