« 詩の紹介  「FOR SEOUL」外村文象 | トップページ | 「文芸同人誌評」「週刊 読書人」08年8月22日、白川正芳氏 »

2008年8月 9日 (土)

井上荒野&江國香織、直木賞受賞記念対談(分載の1) 

 (08年8月8日 読売新聞)
『切羽(きりは)へ』(新潮社)で直木賞受賞に決まった井上荒野さん(47)と4年前に同賞を受けた江國香織さん(44)は、同じころにデビューし、親交を深めてきた。ともに作家の父を持つ2人に小説観、恋愛観を語り合ってもらった。
               ☆
【いのうえ・あれの】1961年、東京生まれ。父は「全身小説家」と言われた作家の井上光晴。89年、「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞。2004年、『潤一』で島清恋愛文学賞。著書に『もう切るわ』『だりや荘』『しかたのない水』『ベーコン』など。

【えくに・かおり】1964年東京生まれ。父は随筆家の江國滋。89年「409ラドクリフ」で第1回フェミナ賞。04年『号泣する準備はできていた』で直木賞。著書に『きらきらひかる』『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』『がらくた』など。

 『切羽へ』 かつて炭鉱で栄えた九州地方の島を舞台にした恋愛長編。画家の夫と仲むつまじく暮らす島の小学校養護教諭セイは、ある日東京からやってきた若い男性教師・石和にどうしようもなく引かれていく――。
               ☆
 江國 直木賞、本当におめでとう。これで二人とももらえたね。
 井上 ありがとう。私は長い間思うように書けなくて、江國さんの小説だけじゃなくて、ほかの人の本も読めない時期もあったから、こうして一緒の賞をもらえて本当にうれしい。
 江國 賞を取ると、これまで読んだことがない人も本を買ってくれたりするし。
 井上 郵便屋さんからも「おめでとうございます」と言われた。でも、すごくありがたいんだけど、これまでの作品と受賞作とそんなに部数の差が出るほど違うとは思わないから、直木賞ってすごいなあ、と思うと同時に、ちょっと釈然としないというか……。
 江國 うんうん。
 井上 最初に会ったのは、1989年のフェミナ賞の授賞式だったよね。二人とも、何に対してムッとするかというところが似ていた。食い意地がはってるところも。それと私たち、場当たり的な言葉に厳しいよね。
 江國 言葉って大事。仕事の話でも与太話でも、ちゃんとそこで考えてそこで言葉を発してほしい。結婚が恋愛の抑止にならないと思っているところもお互い似ているよね。直木賞の受賞会見で荒野さんが「夫婦だから信頼できるとか安心だということは一切信じてない。でも、私にとって夫はそれとは全く別のことです」と言ったのは格好よかった。『切羽へ』は、私は夫婦の感じがすごく色っぽいと思った。それと方言の使い方がうまくて嫉妬(しっと)した。
 井上 ふふふ。私、半分ネイティブだから。やっぱり、夫婦になると、色っぽい出来事が、ご飯を食べたり、買い物に行ったりするのと並列にあるから、いやらしいんじゃないかな。
 江國 きっとそうだ。

|

« 詩の紹介  「FOR SEOUL」外村文象 | トップページ | 「文芸同人誌評」「週刊 読書人」08年8月22日、白川正芳氏 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 詩の紹介  「FOR SEOUL」外村文象 | トップページ | 「文芸同人誌評」「週刊 読書人」08年8月22日、白川正芳氏 »