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2008年7月 1日 (火)

同人誌作品紹介「文芸中部」第78号(上)

【「春の試み」堀井清】
定年退職した男の視点で、市井の出来事が語られる。妻と二人暮らしで、老夫婦となると、妻と夫は別行動をとるようになる。作者の設定が世相を見越していることで、読者としては安心して読めるし、これまで、しばしば読んで来て、作風を知っているので、わくわくしながら、こんどはどんな風に作者の世界に案内してくれるのだろうと楽しみになるのである。いつも贔屓的に読んでしまう作風の作品である。
 今回は、地域活動に参加するなかで、鉄道自殺した老人のことを新聞で知って、その見知らぬ老人の葬儀に出る。図書館の写真展にいって、興味ある作品の女性の作者と出会い写真制作の事情を聞く。40年来の友人でオーディオマニアの男の家にゆく。音楽を聴くことが生きる事という説を生み出す。ウオーキングで知り合った女性とデートし、「強盗でもしましょうか」と話し合い、地下鉄では、若者の出した足に躓いて転び、家に帰って妻に女性とデートしたことを語り、妻との愛の泉も、歳月によって枯れた滝のようになっていて、それでも泉は泉の形があり、滝は滝の形が残る。私小説的に書かれているが、その内容は創作そのもの。登場する人はみな作者の息吹のかかった人間像と思われる。しみじみとして、しかも面白く、精神の自由が感じられる文学作品。

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