同人誌「季刊遠近」第34号(事務局・千葉県)作品紹介
【「花の寺」安西昌原】
娘のいる未亡人と中年の男の交際を描く。男と未亡人の娘の関係、亡き夫の愛した江戸彼岸桜をみて涙する未亡人。その後、男との関係は、どうなるのか、という想像をさせておわる。
【「密葬」柚かおり】
集合住宅から一戸建て住宅に引っ越した夫婦。同じような家が3軒並んでいる。同じく、転居してきた隣の家の様子が気になる。そのうちに、ご主人らしき男が外に出なくなり、やがて葬式の気配がして、密葬のようである。ちらちらとうかがい知る隣人の様子を描いて、ちょっとミステリー小説風の味のある作品。
【「高齢者は剛いぞ」北大井卓午】
スキー場で再開した、大学生時代の友人。名刺交換をし、彼のホームページをみたりして、その半生をたどると、世界を股かけて活動する経営コンサルタントであった。ビジネスの成功者である。そして、ガンと戦いながら、「六甲のガンマン」と自称し、社会活動をする姿を追う。語り手は、その姿に圧倒されながら、なにか感動の不足を感じると記す。友人でなければ、読みようによっては、ただの自慢話のようにも取れてしまう。そこで終わる。自伝と小説とは、おのずと異なるところがあるので、そこを読者に考えさせようとしたのかもしれない。
自伝とか聞き書きというのは、微妙なところがあって、以前、日本経済新聞の「私の履歴書」に宮城まりこが取り上げられていて、感動して読んだ。本人が書いたものだとばかり思い込んでいたら、記者の聞き書きらしいとわかり、その担当記者の表現力の見事さに驚いた記憶がある。また、古山高麗雄が小説の売れない時代に、中小企業の社長に頼まれて自伝本を代筆していたそうで、その自伝は読むと感動的なのだという。事実を書いても、表現の仕方で印象が変わるとなると、その事実というものの本当の姿は、解釈が不変ではないということになる。
【「繭ごもり」藤野秀樹】
中国地方出身の男が、頭痛に悩まされ、故郷の甘露の実を食べると、治ると思い故郷に帰る。なにやら都会の生活に疲れて、ふるさとに身をおきたくなった男の心のイメージ小説のようである。
| 固定リンク
コメント