同人誌「砂」第107号の詩評(2)
(評・矢野俊彦)
【「母の愚痴」江 素瑛】
亡くなった母の愚痴、先に逝ったパパを恨み、会いに来ない子供達への恨みを言い暮らしていた母。その母さえ今はない。一つ二つの声音を甦らせる。母への思慕の思いを三者三様にうたっている作品群だ。
「命」 生命の終わりを見つめたものは、生きるということに敏感になり、生の根源を問う。生きるということは、まことに他の命を食べるということなのだ。そのことを悟ったから仏法者は粗食を旨としたのでしょう。イスラム教のラマダンの断食も、根拠はそうしたところから発しているのかも知れない。
【「居場所」たちばな・りゅう子】
居場所を失った現代の疎外感。失ったのは自分の記憶なのか、他の人の記憶なのか、リアルに写されているので実に怖い。
【「ゆすら梅」北川加奈子】
いつか唇は、ゆすら梅になる。若い女性のように羞恥かんでいる。美しい表現である。
私が疎開した、母の実家の庭にもゆすら梅ノ木があった。先月訪ねた彼の地は、更地になっていた。九十歳の母もここにゆすら梅ノ木があったのだがと、喪失感をあらわしていた。
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