講談社ノベルスで篠田節子さんの「転生」
(講談社「Webメフィスト」HPより)
篠田節子(しのだ・せつこ)プロフィール='90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。'97年には『ゴサインタン――神の座』で、山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞を連続受賞。
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(篠田節子(しのだ・せつこ)「転生」のあとがきのあとがき)
十五年ぶりにノベルスの依頼をいただきました。五十過ぎのオバハンに向かって、若者対象の媒体の、しかも本格ミステリの牙城で、何をか書けとの無理難題。
「ヤだよ。中年女が渋谷のクラブに闖入して、ゴーゴー踊るの図じゃない。つまみ出されるのがオチだよ」
「だから、今回は、講談社ノベルス二十五周年のイベントなんスよ。同窓会です、同窓会!」
「んなこと言ったって、M川H子母さんだってT川M子女史だって、R城法師だって、復刻じゃん。あたしのも……」
「喝っ! 十年早い」
というわけで、ぴかぴかの新作とあいなりました。
同時刊行のノベルスの中では浮きまくっております。中身は本格でも変格でもYAでもありません。SF&冒険&伝奇バイオレンス(若者は知らんだろう、この言葉)&エロス&旅情ミステリであります。
更年期の体に鞭打って、チベット取材も敢行いたしました。標高五千メートルの薄い空気と凍りつく大気、まぶしい陽光と燻香の匂いなどを、行間から感じ取っていただければ幸いです。政治的にアブないオバサンギャグがあまた出てまいりますが、無視してやってください。
題材は敬愛する上田秋成から取りました。雨月物語の艶やかな怪異は大変に魅力的なものですが、老境にはいった秋成の冴え渡った知性をうかがわせる春雨物語に横溢する飄々たるユーモアとウィットもまた格別です。題材を古典に拠ったとはいえ、まだまだジャパネスクに走るほど枯れてはおりません。舞台は二十一世紀の変わり行くチベットといたしました。
中盤以降、気宇壮大な与太話が出てきますが、百パーセントが私の創作ではなく、この種のアイデアは専門家から現実に出されているものです(今のところ、実現可能性はありません)。描写については、ディスカバリーチャンネルの「メガ・プロジェクト」「世紀の建造」他、ドキュメンタリービデオが大変に参考になりました。
作中のシシャパンマという山は、南のネパール側からは「ゴサインタン」と呼ばれています。シシャパンマは、「家畜が死に絶え、麦も枯れる地」、ゴサインタンは「神の座」という意味。なりふり構わぬ中年パワー炸裂の一作になったかと思います。お楽しみいただければ幸いです。
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