友情悲しき結末、66歳児童文学作家 俳優殴り死なす
大阪で先週、児童文学作家の男が、20年来の友人である杉並の劇団員の男性を殴り、死なせる事件があった。2人は阿佐谷の飲食店で酒を酌み交わし、芸術論を語り、一緒に絵の展覧会も開くほどの仲良しだった。友情の悲しい結末に、劇団員や地元の人たちはショックを隠せないでいる。(金杉康政)
亡くなったのは、「劇団手織座」(杉並区成田東)のベテラン俳優、汐見直行さん(62)。逮捕されたのは、絵本「かばのさかだちあいうえお」などで知られる吉田定一容疑者(66)。
事件が起きたのは今月20日の早朝、大阪府高石市内の吉田容疑者のマンション。酔った吉田容疑者が顔を素手で殴り、汐見さんは転倒。その弾みでテーブルで頭を強く打ち、意識を失った。吉田容疑者は午後になって酔いがさめ、汐見さんの様子がおかしいのに気づき、救急車を呼んだが、頭内に出血しており、助からなかった。
2人の友情は東京ではぐくまれた。吉田容疑者は以前、杉並に住んでおり、約20年前、劇団最寄りの阿佐ヶ谷駅前の飲み屋で知り合い、親しくなった。飲食店関係者によると、「お互いに『汐見ちゃん』『定一さん』と呼び合い、酒を飲みながら芸術談議に花を咲かせていた」という。
友情を象徴するのが、「二人画展」。14年前から毎年4月、駅前のギャラリー兼喫茶店で開いてきた。吉田容疑者が出身地の大阪に戻った後も交流は続き、この4月もお客さんに笑顔を振りまく吉田容疑者の姿があった。汐見さんは版画、吉田容疑者は油絵。分野は違っても絵心は通じ合っていた。
2人が個展を開いていた喫茶店関係者は「展覧会の成功祝いで久しぶりに飲んだのかもしれないが、こんなことになってしまって」と、ショックを隠せない様子。劇団仲間も「吉田さんは汐見さんの舞台を欠かさず見に来る仲だったのに」と言葉を詰まらせる。約40年の役者人生。汐見さんは物静かでまじめな人柄から信頼も厚く、劇団のまとめ役だった。役者としては、準主役を務めた「楢山節考」の評価が高い。
一方の吉田容疑者。絵本や詩集を数多く手掛け、著名な児童文学賞を受賞したことも。一時は、都内の大学で講師も務めるほどだった。知人らによると、以前から酒に酔うと言動が粗暴になる癖があった。
大阪府警高石署副署長によると、2人は事件前日の昼からマンションで飲み始め、吉田容疑者はいったん外のスナックに出かけたが、汐見さんは付き合わなかった。帰宅後、「なんで来ないんや」とからんで殴りかかった。それが2人の最後のやりとりに。
調べに対し、吉田容疑者はがっくりと肩を落とし、「申し訳ないことをした」と語ったという。(08年6月27日 読売新聞)
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