« 第1回「城山三郎経済小説大賞」は、松村美香氏「ロロ・ジョングランの歌声」 | トップページ | 有川浩さんら、ケータイ小説を連載 »

2008年6月11日 (水)

同人誌作品紹介「奏」第16号 08夏号

【「彼の呼吸」小森新】
 23年間、私立高校教師をしてきた彼の内面に、自己を見つめる存在があり、架空の自分の視線で物語る。自己を二重意識で描いた私小説的形式と内容の作品。三年前に尊敬する今村理事長が亡くなり、心の支えを失う。学校運営を財政的な面で重視する現在の校長。今村先生はその前の校長であったが、教育的信念より、財政的な要因で、苦しい立場に追い込まれていた。校長下ろしの力が出てきた時に、彼は反対をしなかった。結果的に消極的な加担になってしまっていたことにこだわる。教育界のおそらくもっと生々しいであろう現実の状況を組み込み、作者のべダンチックな心象風景を表現している。作中に引用される古典作品が多くある。自分は「告白」しか読んでいないので、よく理解できなかったが、何となく読み通してしまった。こういう引用の仕方では、この作品は小説ではないような気もした。

 その他、【「芹沢光治良とユマニスム~アンドレ・ジッドとの関連で」勝呂奏】は、ジッドは一部しか読んでいないので(「背徳者」や「地の糧」は読んでいるが)あるが、読んでいなくても引用によって、ジッドと芹沢が、ユマニスム精神にひきつけられた作家で、そのポリシーがわかりやすく、伝わってくる。【「藤枝静男二考」勝呂奏】は、作家の自己嫌悪的な発想と「性欲」の関係を作品から分析している。引用の部分に記憶があり、藤枝作品は、自分も幾つか読んでいたらしい。藤枝は自己確認のあり方のひとつとして性欲を題材にしていたように受取った記憶がある。何を題材にすると自分の存在感が表現できるかを、知っているので、あのような作品が出来たように思う。他にも題材に工夫がある作家で、映画館でポルノを見ることを糸口にするようなところもあって、直接的な本人の悩みとは異なるものがあるのでは。
 本誌の発行関係者は、亡くなった作家・小川国夫の弟子か親しい人らしい。あとがきに追悼の言葉がある。
追記:表紙は、小川国夫の高校入学時に描いたという「南瓜」の絵である。

|

« 第1回「城山三郎経済小説大賞」は、松村美香氏「ロロ・ジョングランの歌声」 | トップページ | 有川浩さんら、ケータイ小説を連載 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 第1回「城山三郎経済小説大賞」は、松村美香氏「ロロ・ジョングランの歌声」 | トップページ | 有川浩さんら、ケータイ小説を連載 »