詩の紹介 「 手と手 」 小澤郁美
(紹介者 江素瑛)
暖かい気持ちが湧いてくる作品です。差し出す手と差し出される手。人の好意を受け勇気と感謝。手と手の触れ合いで、こころのやさしさと体温の温かさがしんみりと伝わってきます。
悩みなどないように、明るくふるまう人たち。そのなかの誰と誰が、心の奥に他人に告げられない辛さをかかえているのでしょうか。うわべではわからない。突然、死を選ぶ人もいる。あなた、辛い気持ちでいませんか? 誰かが声をかければ、その人は死なず済んだのでしょうか?
どこかで、辛い気持ちを持つ人に、おそらく、この詩は癒しとなるでしょう。
☆
手と手 小澤郁美
人工太陽が輝く/ 巨大なショツピングモール/ 天井の高いこの街にぬかるみはないと思った/ あたらしい職場で油断をしていた/ 足をすべらせてころんでいた/ すると 大きくて温かな手がさしだされた/ まがったことが大嫌/ 「臭いものにふたをしろ」が口ぐせ/ 嫌なことは嫌とはっきり言って/ 豪快にアッハハと笑う/Kさんはおんな親分のようだ
*
薄暗い池袋の地下道を歩いた/ 幼い頃 母と弟妹と/ いつの間にか/ 母の右手に弟 左手に妹/ わたしはその背中をみていた/ 「おねえちゃんがかわいそう」/ ちさくてやわらかな手がさしだされた
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哀しいほどにすんだ空 秋の日差しのなかで/ こぼれおちた時間のかけらを拾いあげる/ 今日はつらさよりもやさしさにつつまれていていたいとおもう
詩誌 「まひる」 2008年5月 第4号より(あきる野・アサの会 PART 2)
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