詩の紹介 「村が消える」 山崎啓
(紹介者 江素瑛)
衰えていく老農夫達、故郷を棄てる若者達、荒廃した里山を自然が遠慮なく、取り戻していく。自然が人間の手によって破壊されていく中に、繰り返す自然と人間との競争、自然と人間とのバランスを保つことはできないのか。自然の国を治めるには、竹薮を整理すること。すると乱れも治まる。
☆
村が消える (朗読のための詩) 山崎啓
竹は/田んぽの畦にまで攻めて来ていた/大根も細くて長い牛蒡もすんなり抜ける/その段々畑も侵略するらしい (中略)
竹薮はその昔/小百姓の次男三男によって開墾されて/いっときは荒れたままのときもあったが/そのうち疎開の学童たちによって/改めて耕された
そのとき/竹は黙って見ていた/汗水して耕して薩摩藷が植えられ/栗や黍も作られて飢えを凌ぐために/子どもたちは働いた/竹林が 棚田になり/雑木林が段々畑になって行くことに/竹は逆らわなかったのだ
だが今は違う/芒や雑草や 葛の蔓が蔓延り/どんどん藪として広がりを見せている/でも/それでも/若者たちは明日を見向きもしないで/己の今に溺れていた
竹たちは知っていた/いずれまた飢えが来る/飢餓がしのびよってきて開墾が始まる/永劫に繰り返されることを知っているから/竹は限りなく/領土を拡げて行って
(中略)
村は何時の日からか/暮らしを失ってしまっていた/暮らしの音のない村になっていた
(中略)
長老と敬われた村の世話人も逝った/彼岸花が萎んでしまった/段々畑の畦を枕にして/田んぼの落とし水を聞きながら/秋の夜の虫時雨に送られて……
竹は/長老の奥座敷を破り天井を突き抜いて/大空に翻った
蔓は玄関からも/裏玄関からも這い入り込み屋根にも登った
(中略)
いつしか廃屋となった/郵便局も/色を失って傾いたままのポストも襲って藪に抱き込んだ/ただがむしゃらに
(後略)
詩誌 「さちや」No.139 2008.4(岐阜市)
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