メトロ文庫ピンチ 戻らぬ本、減る蔵書
(08年5月23日東京新聞 夕刊)乗客や地域住民から寄贈された本を駅構内で貸し出す東京メトロの「メトロ文庫」が消滅の危機に直面している。ピーク時には二十六駅で開設されていた文庫が今では九駅に減少。蔵書数の最も多い千代田線根津駅(東京都文京区)の文庫も来月で一時閉鎖となる。メトロ文庫誕生から二十年、存続を求める声も強いのだが…。 (社会部・稲熊均)
「メトロ文庫」は一九八八年、丸ノ内線四谷三丁目駅で第一号が開設された。乗降客や駅員、近隣住民らが持ち寄った本を駅構内の書棚に収容。駅利用者が自由に本を選び、借りて持ち出せるシステムだ。貸し出しカードや返却期限はなく、読み終わったら必ず返すという「紳士協定」で成り立っている。
気軽に立ち寄れる「ミニ図書館」として人気を博し、文庫設置駅は二〇〇〇年までに東京都内の二十六駅に広がった。
しかし、ここ数年は各文庫とも返却率が悪化し、蔵書数が激減。閉鎖に追い込まれる駅が急増してきた。現在、残っている駅も大半が返却率10%以下で、蔵書がわずかになっている駅もあり、存続は危うい状態だ。
そんな中、返却率が高く、今も六百冊がある根津駅はメトロ文庫の“優等生”とされてきた。東京大学が近く、本の寄贈が多いことや、地域住民が町ぐるみで文庫を支えてきたことなどが理由に挙げられている。
しかし、根津駅の老朽化に伴い七月には改装工事に入るため、着工前に文庫は撤去されることになった。同駅の野沢繁男助役は「書庫は保存し、工事終了後には文庫を再開する予定」と約束する。
ただ、工事は一年に及ぶため、その間に他のメトロ文庫はほとんどが閉鎖される恐れもある。根津の文庫利用者で定期的に寄贈もしている自営業・武田文夫さん(60)は「ほか(のメトロ文庫)がなくなっている中、根津も一時閉鎖されるのは心配。工事後はぜひ再開してもらいたい」と話している。
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