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2008年5月31日 (土)

詩の紹介 「 手と手 」 小澤郁美

  (紹介者 江素瑛)      
 暖かい気持ちが湧いてくる作品です。差し出す手と差し出される手。人の好意を受け勇気と感謝。手と手の触れ合いで、こころのやさしさと体温の温かさがしんみりと伝わってきます。
 悩みなどないように、明るくふるまう人たち。そのなかの誰と誰が、心の奥に他人に告げられない辛さをかかえているのでしょうか。うわべではわからない。突然、死を選ぶ人もいる。あなた、辛い気持ちでいませんか? 誰かが声をかければ、その人は死なず済んだのでしょうか?
どこかで、辛い気持ちを持つ人に、おそらく、この詩は癒しとなるでしょう。
                ☆

              手と手       小澤郁美

人工太陽が輝く/  巨大なショツピングモール/  天井の高いこの街にぬかるみはないと思った/  あたらしい職場で油断をしていた/  足をすべらせてころんでいた/ すると 大きくて温かな手がさしだされた/ まがったことが大嫌/ 「臭いものにふたをしろ」が口ぐせ/ 嫌なことは嫌とはっきり言って/ 豪快にアッハハと笑う/Kさんはおんな親分のようだ
            *
薄暗い池袋の地下道を歩いた/ 幼い頃 母と弟妹と/ いつの間にか/ 母の右手に弟 左手に妹/ わたしはその背中をみていた/ 「おねえちゃんがかわいそう」/ ちさくてやわらかな手がさしだされた
            *
哀しいほどにすんだ空 秋の日差しのなかで/ こぼれおちた時間のかけらを拾いあげる/ 今日はつらさよりもやさしさにつつまれていていたいとおもう

    詩誌 「まひる」 2008年5月 第4号より(あきる野・アサの会 PART 2)

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西日本文学展望(西日本新聞5月30日朝刊)長野秀樹氏

《対象作品》渡邉眞美「ふよふよ」(「龍舌蘭」173号・宮崎市)、明石善之助「指先」(「午前」83号・福岡市)、芝夏子「残される人」(同)、池田純子「フラミンゴグレイ」(「火山地帯」154号・鹿児島県鹿屋市)、吉川成仁「ゲバラの手」(「龍舌蘭」)、西村聡淳『唯一度きりの手紙』(幻冬社ルネッサンス・「玄界灘」福岡市所属)、「文學界」2008年上半期同人雑誌優秀作 鮒田トト「犬猫降りの日」(「龍舌蘭」172号・宮崎市)。(「文芸同人誌案内」掲示板・日和貴さんまとめ)

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2008年5月30日 (金)

「さおだけ屋」の山田真哉さんの『女子大生会計士の事件簿』中学生に人気

「ポプラ・ブック・ボックス」(全3巻:計60冊)という学級文庫用の短編集(1つの巻に20編の小説・エッセイが入っている)が売り出されたが、『女子大生会計士の事件簿』の中から「北アルプス殺人事件」も収録されている。
山田さんは、最近はNHKのTVドラマの会計士ものの監修もしているようだ。
山田さんが、作家デビューするまでの経過には、つぎのようなことがあった。
 公認会計士・山田真哉さんのミステリー「女子大会計士の事件簿」(英治出版)シリーズは累計50万部以上、その後会計解説本「さおだけ屋はなぜ潰れない?」(光文社)は100万部以上と好調な売れ行きが話題になっている。そこで、ここでは山田真哉さんのそれまでの経緯を追い「作家起業の成功事例」という視点でまとめて見よう。
【自己潜在力の信頼と行動】
 山田真哉さんは、1976年、神戸市生まれ。大阪大学文学部を卒業後、予備校講師をしていたが、進路に迷った末、1年間1日15時間の猛勉強で公認会計士2次試験に合格。会計士補として中央青山監査法人に勤務。公認会計士3次試験に合格後、友人の税理士たちと起業家支援組織「インブルームLLC」を設立。代表を務めている。
【実現への壁と打開策の的確な判断】
古典や架空歴史物語を読むのが好きだったという山田さんは、会計士を目指している受験生向けに監査の世界をわかりやすく教えたいとの思いが小説を書くきっかけになった。当初、資格試験学校TACに企画を持ち込み「TACNEWS」に「女子大会計士の事件簿」を連載。受験生の読者から「もっと読みたい」との反応が多くあった。本にしたいと思い10社以上の出版社にアプローチしたが、良い反応が得られなかった。
 そんなときに、英治出版で「ブックファンド」というシステムがあることを知る。これは、本の売上を見込んで出費者を募集し、資本参加してもらい、売れて利益がでたら配当を受け取れるというファンド。これには、リスクがあり、誰でもファンドが組めるわけではない。だが、「TACNEWS」での実績を見込まれ、2002年に英治出版からファンドを組んでもらえた。その時の概要は、〈出費費用170万円、発行部数3,000部、第1刷は印税なし、2刷より10%。ブックファンド終了後、売上から経費を引き、英治出版に手数料を支払い、残った金額が配当金となる〉というもの。現在は170万円では、ブックファンドを組成できないが、この時のファンドは、1年半後に終了し、配当金650万円、それと別に印税が受け取れるという大成功を収めた。
【成功体験から、大成功への大胆な展開】
 しかし、それだけでビジネス的に成功したわけではなく、有力な書店をまわり、自ら本の注文を取って歩いた。廻った店の半分には断られ、もう半分が注文をしてくれたという。さらに、費用を負担して日経新聞に広告を出すなど、積極的な販売促進活動をした結果がベストセラーに結びついているのである。こうした経緯をたどると、この成功が偶発性や幸運でなく、合理性をもった活動の連続が好結果を生んでいることが解る。
 とにかく現在は会計士の本業に、執筆依頼、講演依頼と超多忙な毎日。山田さんは、神戸の大震災を経験している。この時の体験が今後も、社会参加型の貢献を意識した進路へ向かわせるのかも知れない。

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2008年5月27日 (火)

第2回「小説宝石新人賞」は、中島要さんの「素見(ひやかし)

第2回「小説宝石新人賞」(光文社)受賞作は、神奈川県在住・中島要氏「素見(ひやかし)」に決まった。応募総数は1291編だった。発売中の「小説宝石」6月号で、受賞作および受賞のことば、最終選考委員の奥田英朗氏と角田光代氏による選考対談を掲載。

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文芸時評(読売新聞)08年5月

《対象作品》楊逸(ヤンン・イー)(43)「時が滲む朝」(文学界)/岡崎祥久(39)「ctの深い川の町」(群像)/松尾依子(23)「子守唄しか聞こえない」(群像)/横田創(37)「無頭鰯」(同)/茅野裕城子(52)「イラコ岬」(すばる)。(5月27日付け、山内則史記者)。

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2008年5月26日 (月)

小泉今日子、香川照之も「やっぱりうれしい!」第61回カンヌ国際映画祭

(08年05月26日シネマトゥデイ)第61回カンヌ国際映画祭にて、黒沢清監督の『トウキョウソナタ』が、「ある視点部門」の大賞の次点にあたる審査員賞を受賞し、出演者の香川照之、小泉今日子が「やっぱりうれしい!」のコメントを寄せた。 黒沢清監督は、夫人が5月10日に軽度の脳梗塞で倒れたためにこの映画祭への参加を見合わせる予定。

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2008年5月25日 (日)

オリコン裁判の判決で、出版の自由が危ない=出版流通対策協議会がセミナー

オリコンは、いろいろな分野で市場のランキングデータをつくり販売しているようだ。実物をみたことがないので、本にしたり新聞に掲載しているのか、データーだけを販売しているのかわからないが、商売ネタはどこにでもあるものだ。

オリコン裁判の判決で、出版の自由が危ない=流体協がセミナー

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2008年5月24日 (土)

メトロ文庫ピンチ 戻らぬ本、減る蔵書

(08年5月23日東京新聞 夕刊)乗客や地域住民から寄贈された本を駅構内で貸し出す東京メトロの「メトロ文庫」が消滅の危機に直面している。ピーク時には二十六駅で開設されていた文庫が今では九駅に減少。蔵書数の最も多い千代田線根津駅(東京都文京区)の文庫も来月で一時閉鎖となる。メトロ文庫誕生から二十年、存続を求める声も強いのだが…。 (社会部・稲熊均)

 「メトロ文庫」は一九八八年、丸ノ内線四谷三丁目駅で第一号が開設された。乗降客や駅員、近隣住民らが持ち寄った本を駅構内の書棚に収容。駅利用者が自由に本を選び、借りて持ち出せるシステムだ。貸し出しカードや返却期限はなく、読み終わったら必ず返すという「紳士協定」で成り立っている。

 気軽に立ち寄れる「ミニ図書館」として人気を博し、文庫設置駅は二〇〇〇年までに東京都内の二十六駅に広がった。

 しかし、ここ数年は各文庫とも返却率が悪化し、蔵書数が激減。閉鎖に追い込まれる駅が急増してきた。現在、残っている駅も大半が返却率10%以下で、蔵書がわずかになっている駅もあり、存続は危うい状態だ。

 そんな中、返却率が高く、今も六百冊がある根津駅はメトロ文庫の“優等生”とされてきた。東京大学が近く、本の寄贈が多いことや、地域住民が町ぐるみで文庫を支えてきたことなどが理由に挙げられている。

 しかし、根津駅の老朽化に伴い七月には改装工事に入るため、着工前に文庫は撤去されることになった。同駅の野沢繁男助役は「書庫は保存し、工事終了後には文庫を再開する予定」と約束する。

 ただ、工事は一年に及ぶため、その間に他のメトロ文庫はほとんどが閉鎖される恐れもある。根津の文庫利用者で定期的に寄贈もしている自営業・武田文夫さん(60)は「ほか(のメトロ文庫)がなくなっている中、根津も一時閉鎖されるのは心配。工事後はぜひ再開してもらいたい」と話している。

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2008年5月23日 (金)

毎日新聞「高校生小論文コンテスト」

「高校生小論文コンテスト」(毎日新聞)

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2008年5月22日 (木)

同人誌作品紹介「木曜日」第24号(さいたま市)(2)

【「竜善」小梢】
竜善和尚は、北国のお寺の住職である。寺は幼稚園も経営している。竜善は、胃がんの摘出手術のあと、肺炎を恐れ、病気をおそれて暮らす。小心ではあるが、正直な性格である。作者は、巧みな語り口でこうした性格をユーモアをもって活写する。夫婦の関係、幼友達の春江との交流、友達との付き合い方が具体的なエピソードで紹介される。滑稽味のある表現力は、才気才能を感じさせるものがあり、面白く読める。竜善は病気の心配をしながら、人間関係に右往左往し、ある日、蜂に刺されてショック死してしまう。人間的、人格的に偉大ではないが、仏道に沿った真っ当な人生のあり方を示してみせている。軽い調子の語りにもかかわらず、作者の宗教的な造詣の深さを感じさせる良質な作品に思えた。
【「腐った水」坪倉亜矢】
ボクサーの心理、その観客の心理、阪神淡路大震災の体験、会社内パワーハラスメントの体験、女性同士の友情など、さまざまな要素を盛り込んで、題材ごとにそれぞれの人々の内面を語る一人称多視点のモザイク形式の小説。いろいろな素材をミックスしてサラダボールに入れて食べるような面白さがある。語り手の内面もかなり工夫をして深みが出ている場面もあり、読みやすく面白く感じた。このような手法は、複雑なストーリーを分かりやすくするために採用されることが多く、娯楽小説の読者サービスに向いている。よほど高度な技術でないと純文学的な深みを与えるのが難しいようだ。この作品は力作感が充分あり、現代人の肌合いをよく表現している。同時にその表現内に留まっている、とも感じた。

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同人誌「小説藝術」47号(新座市)作品紹介

【詩「いとしくて」犬山六郎】
80幾年か役に立ってきた犬歯が、朝目覚めたら抜けていた。かつては白かった色も黄色くなり、根は黒ずんでいる。くたびれ果てた己の姿そのもので、いとおしい、という内容。
【詩二題「春のとき」「朝の食卓」長谷川冨貴】
「春のとき」は、草色に染められる気配を覚えながら/恋慕や嫉妬の感情もあったことを蘇らせる/この 春のときーーという。「朝の食卓」は、毎日、夫の同じ顔、同じ献立。今日の出来を論評しあう。“だけど 平和な世の中っていいね”“落ち着いて食事していられるもの”あと求めるのは、藝術に対する己のエネルーの強さだという内容。
【「ドストエフスキー小論」高杢一正】
筆者の文学へのかかわる話(小説よりも評論をすることにした経緯)と、西洋のフローベルやモーパッサン、日本の漱石や菊池寛、芥川龍之介の話題がある。筆者は、生活を犠牲にする藝術至上主義より、人生至上主義なので、小説より評論をする方を選んだという。そのあと「貧しき人々」の梗概をする。
【随筆「甲州街道」和田聖子】
もと、衆議院議員の私設秘書をしていて、同人誌に小説を書く人の高級老人ホームの生活の日誌。その生活ぶりが描かれていて興味深い。
「小説藝術」発行所=〒352-0032新座市新堀1-7-26、竹森方。

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2008年5月21日 (水)

セブン‐イレブンが「オリジナル書籍」の販売

セブン‐イレブンが「オリジナル書籍」の販売を開始した。大沢オフィスと組み、大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆき氏の既発表作品を新たに商品化。19日から東京・神奈川・埼玉・千葉の全店舗(約4000店)で同社の専売商品として取り扱っている。発行元は講談社。セブン‐イレブンは初回4万部を入荷、「1カ月間で3万5000部の実売が目標」とし、売行きがよければ全国約1万2000店舗に展開を広げる。

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第51回農民文学賞受賞の大塚史朗氏の生活がNHKTV番組に

第51回農民文学賞受賞の大塚史朗氏の生活がNHKTV5月27日の午前11時15分より放送されることがわかった。若いディレクターが4回にわたり取材し、四人のスタッフが10時から5時まで取材にあたったという。
大塚史朗氏の受賞のPJニュース。

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2008年5月20日 (火)

同人誌作品紹介「照葉樹」第5号(福岡市)

現在、紹介者も同人誌向けの作品を書いているので、他者の作品への言葉は、みな自分に突き刺さってくる。どうしても、批評的な視点が不足しがちだ。自分も書くという視点では、その作品の長所があれば自分も真似したいという気持がどこかにある。そういう視線では、文芸批評的なものは、成立しないのである。今回の「照葉樹」の二作は、真似したくなるところが多くあり、参考になる。
【「不器用な愛しさ」水木怜】
 語り手の「私」は、夫が他の女のもとに去り、別れている。捨てられた思いで、幼い子どもを連れ、母のいる実家に帰る。父親は戦死している。時代は1960年代後半か。実家で肩身せまくして暮らす。すると40代まで独身であった佳子叔母が、50歳過ぎの絵描きさんと結婚し、独身でいた時よりも幸せとは見られない状況にあることを知る。また、隣に住む母親の兄の純一郎は医師で、戦場を体験したことから独特の死生観をもち、それに従う妻の志津代の姿も描かれる。
 不幸の影のさす中で、「私」の夫の宏志が、反省してよりを戻そうとする様子が描かれる。それらの出来事から、好しにつけ悪しにつけ、女性の運命は男の生活ぶりの影響下にあることが示されている。
後半に入ると、佳子叔母の女友達が、超能力を売りにした宗教を持ち込み、佳子叔母はそれにのめりこむ。やがて彼女は精神に変調をきたし、ついに人格が崩壊してしまう。志津代叔母は、夫の独自の死生観から、ガンになっていても知らされず、手遅れになって亡くなってゆく。
 この二人の女性にくらべ、夫が子どものもとに戻り、「私」の円満家庭の再現と母親の幸せ生活のはじまりを描く。
 小説のスタイルとしては、導入部がもたもたししているが、その分、後半での生活のなかの修羅場がイキイキとし、表現力が光る。オーソドックスな純文学作品。
 なかで、印象的なのは、自分の与えられた環境に殉じて、忍従の生活をして死んでいく志津代の姿である。作者の費やした文字数は、それほど多くないが、その精神の美のようなものを表現している。字数を多く費すことだけが表現のすべてではないことが、ここに示されている。

【「中有の樹」垂水薫】
 どういうわけか、語り手は森の中の大樹の枝に宙吊りになっていることに気づく。どうやらそこは霊界と現実の交差する幽界付近らしい。
 そこで語り手は、38年にわたる自分の人生を見つめなおし、洗い出しをする。
 うまい手法を編み出したものである。この手法であるからこそ表現できた作品と思わせる。作者の樹木好みの嗜好がよく感じられるし、世俗的な生活では、意識下にある死と隣接した感覚をうまく表現している。幻想的でありながら、森のイメージのディテールがリアルで、清涼感と森林浴感覚に満ちている。いつも大木に宙吊りというわけにいくまいが、森林浴感覚の新境地が期待できる。大江健三郎の初期作品には、四国の森林浴感覚の作品があるが、またべつ風味の森林浴感覚作品が期待できそう。
「照葉樹」発行所=花書院〒811-0852福岡県久留米市高良内町2347-182。℡/fax0942-43-9089。

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2008年5月18日 (日)

『夢をかなえるゾウ』がミリオンセラーに

水野敬也著「夢をかなえるゾウ」は、27刷目で100万部を達成、14日の28刷で105万部となった。昨年8月に発売。飛鳥新社刊。飛鳥新社のミリオンセラーは1992年発行の『磯野家の謎』以来。

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江戸川乱歩賞は、翔田寛さんと末浦広海さんに決まる

 第54回江戸川乱歩賞(日本推理作家協会主催)は16日、翔田寛さんの「誘拐児」と末浦広海さんの「猛き咆哮(ほうこう)の果て」に決まった。

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2008年5月17日 (土)

「大学読書人大賞」光文社古典新訳文庫『幼年期の終わり』に決まった

大学生の投票による「大学読書人大賞」は、光文社古典新訳文庫『幼年期の終わり』に決まった。大学生協は5月12日から、全国81カ所の書籍売場で、入賞作を含めたブックフェアを展開している。
なお、同賞の授賞式は6月11日午後7時、東京・神楽坂の日本出版クラブ会館。

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2008年5月15日 (木)

『蟹工船』異例の売れ行き【毎日・鈴木英生記者】

 ◇高橋源一郎さん雨宮処凛さんの本紙対談きっかけに
 日本のプロレタリア文学を代表する作家、小林多喜二(1903~33年)の『蟹工船(かにこうせん)・党生活者』(新潮文庫)が、今のワーキングプア問題と絡んで異例の売れ行きを示している。今年、すでに例年の5倍を超す2万7000部を増刷した。格差社会の現実を映したような現象が、関係者の注目を集めている。

 きっかけは、今年1月9日に毎日新聞東京本社版朝刊文化面に掲載された作家の高橋源一郎さん=と雨宮処凛(かりん)さん=の対談。2人は「現代日本で多くの若者たちの置かれている状況が『蟹工船』の世界に通じている」と指摘。それを読んだ元フリーターの書店員が、ブームに火を付けた。

 『蟹工船』は元々、1929年に発表された。カムチャツカ沖でカニを捕り、缶詰に加工する船の労働者が、過酷な労働条件に怒り、ストライキで立ち上がる話だ。一昨年と昨年には漫画版が相次いで出版されるなど、多喜二没後75年の今年を前に流行の兆しがあった。

 対談で、雨宮さんは「『蟹工船』を読んで、今のフリーターと状況が似ていると思いました」「プロレタリア文学が今や等身大の文学になっている。蟹工船は法律の網をくぐった船で、そこで命が捨てられる」と若者たちの置かれている状況を代弁するように発言。高橋さんも「今で言う偽装請負なんだよね、あの船は」「僕は以前(略)この小説を歴史として読んだけれど、今の子は『これ、自分と同じだよ』となるんですね」と応えた。

 対談を知った東京・JR上野駅構内の書店、「BOOK EXPRSSディラ上野店」の店員、長谷川仁美さん(28)は2月に『蟹工船』を読み直し、「こんなに切実で、共感できる話だったんだ」と感じた。長谷川さんも、昨年まで3年間、フリーターだったという。

 そこで、長谷川さんは「この現状、もしや……『蟹工船』じゃないか?」などと書いたポップ(店頭ミニ広告)を作り、150冊仕入れた新潮文庫を店頭で平積みにしてみた。すると、それまで週にせいぜい1冊しか売れなかった同書が、毎週40冊以上売れ続け、多い週は100冊を超えた。平積みにしてから約2カ月半で、延べ約900冊が売れたという。

 この動きを見た新潮社も、手書き風に「若い労働者からの圧倒的な支持!」と書いたポップを数百枚印刷して全国の店に配ると、ブームが一挙に拡大した。そこで、3月に7000部、4月に2万部を増刷した。新潮社は今後、ポップをさらに1500枚印刷し、宣伝を強化する。

 新潮社では「こうした経緯で古典が爆発的に売れるケースは珍しい。内容が若い人たちの共感を呼んでいるうえ、03年の改版以来使っている、戦前の図柄を元にしたロシアフォルマリズム風の表紙も新しい読者に受けているようだ」と話している。

 ◇今の経済構造と類似--文芸評論家、川村湊さんの話
 『蟹工船』の労働者は、形式上、本人の意思で船に乗っている。だが、そこを脱する機会がない。これは、若者をフリーターから抜け出させない今の経済構造と似ている。輸出用の缶詰を作る労働者が搾取される構図も、今の世界資本主義のあり方を先取りして表現した。現代の若い読者には、この物語のような決起への呼びかけに対する潜在的な欲求があるのかもしれない。(毎日新聞08年5月14日夕刊)

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2008年5月14日 (水)

有栖川有栖さん「女王国の城」が本格ミステリ大賞に

 第8回本格ミステリ大賞(本格ミステリ作家クラブ主催)は13日、小説部門に有栖川有栖さんの「女王国の城」(東京創元社)、評論・研究部門に小森健太朗さんの「探偵小説の論理学」(南雲堂)を選んだ。

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2008年5月13日 (火)

同人誌時評「図書新聞」08年5月17日 志村有弘氏

《対象作品》「否定」青柳俊哉(「PARNASSIUS」150号/福岡市)、「赤貧洗うが如し」中原洋一(「大衆芸能」68巻4号/東京都)、「芥川龍之介と「広瀬のおじさん」」塙宣子(「韻」5号/東京都)、「青葉の笛」平沼超人(「果樹園」10号/豊川市)、「汚された神女―井上内親王のひとつの風景」佐藤明子(「豊中文学」29号/豊中市)、「青狐の賦―火野葦平の天国と地獄(上)」暮安翠、「放恣の時代の中で」秋山喜文(以上「九州文学」7期1号/中間市)、「妻夫は輪廻の絆」西村啓(「季刊作家」64号/豊田市)、「御旧地探索」武野晩来(「青稲」80号/松戸市)、「弁天夢幻」五十嵐崇(「断絶」102号/東京都)、「春の修羅」藤原響(「かばん」2008年3月号/東京都)、「華やぎて リコリス」伊藤恭子(「渤海」55号/富山市)、「朝の橋」穂積生萩、「反歌」小山富美子(以上「火の群れ」105号/東京都)。創刊号「九州文学」第七期創刊号(中間市)、「星座盤」創刊号(豊中市)。追悼・阿部英雄(「岩漿」第二期創刊号/伊東市)、桜井恵志(「象」60号/名古屋市)、北川荘平(「雑木林」11号/枚方市)、大場正男(「PARNASSIUS」150号/福岡市)、小倉三郎(「火の群れ」105号/東京都)、栗原久(「文学世紀」34号/東京都)。 ( Pj_010
(「文芸同人誌案内」掲示板よこいさんまとめ)
【写真は「春の文学フリマ」での同人誌見本】

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2008年5月12日 (月)

08春の文学フリマは、雨でも盛況!

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5月11日(日)開催の「春の文学フリマ」が中小企業振興公社(東京・秋葉原)で開催された。午前中は雨だったが、午後になって雨が止むと入場者がどんどん増え、サークル案内のカタログがすべてなくなった。出展者と入場者で1000人を超えたようだ。
 11時の開場には、並んで待っていた入場者のほとんどがいきなり2階のブース向った。そこで、いくつかのブースで行列ができていた。
 「文学フリマ」のスケジュールとして、今年の秋は秋葉原で、来年の5月には蒲田のPIOでの開催が予定されていることが発表された。
 会場では、アンケートのほかに、出展者に伝言ノートを回覧していた。「楽しかった。また、参加したい」というような書き込みが多く、好評であった。

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2008年5月11日 (日)

江戸川乱歩賞は、翔田寛さんと末浦広海さんに決まる

 第54回江戸川乱歩賞(日本推理作家協会主催)が16日、翔田寛さんの「誘拐児」と末浦広海さんの「猛き咆哮(ほうこう)の果て」に決まった。

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桑原武夫賞に四方田氏

 第11回桑原武夫学芸賞(潮出版社主催)は、四方田犬彦氏の「日本のマラーノ文学」「翻訳と雑神」(共に人文書院)に決まった。 賞金は100万円。

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2008年5月10日 (土)

ホラー小説大賞、真藤順丈さんの「庵堂三兄弟の聖職」に

 第15回日本ホラー小説大賞(角川書店主催)は、大賞に東京都の映像制作業、真藤順丈(じゅんじょう)さん(30)の「庵堂(あんどう)三兄弟の聖職」が決まった。 長編賞は飴村行(こう)さん(39)の「粘膜人間の見る夢」に、短編賞は田辺青蛙(せいあ)さん(25)の「生き屏風(びょうぶ)」と、雀野日名子(すずめのひなこ)さん(37)の「トンコ」に決まった。 賞金は大賞500万円、長編賞300万円、短編賞100万円。

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2008年5月 9日 (金)

文芸同人誌に関するある話題

 雑誌「文学界」の文芸同人誌評欄がなくなるというニュースが出たが、同人誌の存在をしめすメジャーな情報がなくなるのは寂しいが、書き手の多くは、「文学界」同人誌評とは無縁ところにいるはずである。
 「文学界」同人誌評では、古典的で本格的な、特に洗練された日本語による文学的表現に優れた作品を選ぶことが多いので、そういう書き手には残念であろう。いま、日本語の美文という概念が崩壊してしまっているので、その基準は貴重なものがあった。
 評者のひとり勝又浩法大教授の話によると、同人誌には、「同じ名前で発表してもらうと過去の作品傾向と比較ができるので、取り上げられやすい」ということだった。
そこへいくと、バカボンは、雑駁な文章でペンネームを変えて発表するので、あまり取り上げられなかった。ただ、取り上げられると同人誌仲間が非常に喜ぶのが印象的で、それだけで「そんなにたいしたものなのか」と意義を考えさせられた。
 文芸同人誌のひとつに旋盤工・作家の小関智弘氏の所属する「塩分」というのがある。バカボンは小関氏の講演を聞いたり、小関氏の昔からの友人の文芸評論家・浜賀知彦さん(かつて日産自動車工場の労働運動のリーダーとして活躍した)からの話で、知っているのだが、肝心の「塩分」という同人誌にめぐり合うことがない。
同人誌「塩分」は、文学界の同人誌評に取り上げられ、小関智弘を旋盤工から旋盤工・作家を登場させた。小関さんは、弟さんと共産党員時代に、地下にもぐったこともある活動家だった。小関さんは、18歳のときに、高校を出て51年間、大田区の町工場で旋盤工をしながら「塩分」に参加してきた。現在に至っている。共産党の六全協がでたころ、小関さんは赤旗を配って歩き、その時代に「文学界」同人雑誌評の担当をしいた大田区在住の文評論家・久保田正文氏(故人)に出会う。いつも出入りしている飲み屋に「塩分」を置いてもらっていた。すると、地元の久保田氏が手にとって読んだ。小関さんの「ファンキー・ジャズデモ」という16枚の短編を読んで注目。雑誌「新日本文学」に転載されるきっかけとなった。その後も、「文学界」同人誌評の推薦で、小関さんの作品は直木賞、芥川賞など四度の候補になった。そこから出版社が注目、旋盤工から旋盤工・(ナカグロ)作家・小関智弘が誕生した。
小説「ファンキー・ジャズデモ」は、現在発売中の研究雑誌「文学」(岩波書店)の昭和時代のジャズに関する特集で、秀作として評論の対象になっている。

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2008年5月 8日 (木)

同人雑誌評「文學界」08年6月号大河内昭爾氏

上半期優秀作=「犬猫降りの日」鮒田トト(「龍舌蘭」)。
奨励作=「潮どき」桐山みち代(「河」)、「蜘蛛の部屋」谷口葉子(「カプリチオ」)
「ブルーシートの下で」清水園、「あとがき」(以上「星座盤」創刊号/豊中市)、「お見合いゲーム」望月廣次郎、「編集後記」(以上「淡路島文学」2号/淡路市)、「鷺」寺本親平、「バスを待つ」馬込太郎、「上海」太田京子、「キャンドルナイト」池本朱希、「野々宮さんの恋」折金紀男、吉田知子、吉良任市(以上「遠州豆本別冊短編小説集13」/浜松市)、「冬立つ日に」西向聡(「法螺」58号/交野市)、「その怒りと静謐」田中冬吉(「アミーゴ」59号/松山市)、「たたら火」&「編集後記」木辺弘児、「潮合い」関幸壽(以上「森時計」6号/大阪市)、「風景―後夜」山口馨、「君子豹変」上田千之(以上「渤海」55号/富山市)、「砂の嵐」三浦瑞子、「森を渡る」岡村知鶴子、「『血と水と』」勝陸子(以上「亜熱帯」11号/鹿児島市)、「羽化」武山博、コラム「『速読』と『遅読』」吉田善穂(「断絶」102号/東京都)、「花香橋にて」大野光生(「飃」77号/宇部市)、清水信、衣斐弘行、伊藤伸司、青井奈津、磯崎仮名子(以上「火涼」58号/鈴鹿市)、「紅い螢」高畠寛、「純子先生」小西九嶺(以上「あるかいど」36号/大阪市)、「手亡」&「編集後記」楠本耀子(「葉風」5号/東京都)、「いやしの書―親鸞からイエスへ―」井上武彦(「文芸中部」77号/東海市)、「目が見た目」類ちゑ子、「杜夫の秋」刺賀秀子(以上「小説家」127号/国分寺市)、「心残り」澤辺幸雄、高井有一(随筆集「13時」/東京都)、「お袋さんよぅ」芹沢亮輔(「青稲」80号/松戸市)、「ラブソング」作者名不明(「戞戞」22号/?)、「吉村昭を後世に伝えるために」木村暢男、「吉村昭試論」桑原文明(以上「吉村昭研究」創刊号/西条市)
ベスト5=「その怒りと静謐」田中冬吉、「冬立つ日に」西向聡、「風景―後夜」山口馨、「血と水と」勝陸子、「目が見た目」類ちゑ子。(「文芸同人誌案内」掲示板よこいさんまとめ)

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2008年5月 7日 (水)

農民文学賞受賞詩集「大地がほほえむとき」が特別賞

第51回農民文学賞決まる(下)=「大地がほほえむとき」で児童に伝える自然
「第51回農民文学賞」の特別賞に、大倉尚美さんの詩集「大地がほほえむとき」(けやき書房)が選ばれた。作家・詩人の伊藤桂一氏は、「詩集では大冊の(それだけに内容も充実した)『大地がほほえむとき』を特別賞に推薦した。表紙絵も美しく加えられ、児童文学としての効果も大きく、農民詩の児童への説得力に富んでいる。教育界への農民心情の、よき拡充をしてゆく仕事も、長く果たされてきている」と評価。

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同人誌「木曜日」第24号(東京)作品紹介(2)

【「紙のお城・からっぽの箱(らせんのおうち)」上田万紀】
 10歳の誕生日に、母親が「私」を呼んで「お前はもう子どもではない」と、祖母や叔母の関係を打明けられる。家庭のいきさつが、業務報告書のレポートかメモのような文体で記される。変わったスタイルはおもしろい。この行間に、言いたいことのポイントが隠れているようだ。それをどのような形で表現するかの課題を提出したような小説になっている。
【「三毛猫三毛子」北川佑】
夏目漱石の「我輩は猫である」の猫のような猫に、恋をする猫の三毛子の物語らしい。この三毛子は、脳内思考の電気信号を直接受け止めて解読できるという超能力をもっている。うらやましい能力なのか、不幸な才能なのか。正しく読み込むのにも、能力が必要のようだ。
【「黒猫くろべ」北川佑】
 語り手は現在、脳梗塞でやっと歩けるような情況にあるが、回想をする。それは30代に入る頃に、研究のため老人介護施設の現場に入る。すると、黒猫が人間に変身して人生における生と死について語りかけを受ける。哲学的思考と感性を混ぜてかき混ぜるような味のする作品。味付けがあっさりしているのが特徴。

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2008年5月 6日 (火)

「第51回農民文学賞」詩部門は、大塚史朗さん「引出しの奥」

「第51回農民文学賞」の詩の部門では、大塚史朗さんの詩集「引出しの奥」大塚史朗さんは1935年、群馬県生まれ。15歳のころから文学に興味を持ち、1955年の「農民文学会」の創刊以来の会員である。本格的に詩作を発表しはじめたのは40歳過ぎてからで、「私たち世代の常として、農家の長男は、父母や兄弟や、子供たちの生活・勉学のために力をそそいでいた」と語る。

 「群馬詩人会議」や「群馬民主文学会」とも交流がさかんで、発行ごとに作品を寄せていた。「農民文学」には、詩集という形で、十数年来何回か発表をしてきた。そのため、農民文学賞に幾度もノミネートされてきている。

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詩の紹介 「村が消える」 山崎啓

(紹介者 江素瑛)
 衰えていく老農夫達、故郷を棄てる若者達、荒廃した里山を自然が遠慮なく、取り戻していく。自然が人間の手によって破壊されていく中に、繰り返す自然と人間との競争、自然と人間とのバランスを保つことはできないのか。自然の国を治めるには、竹薮を整理すること。すると乱れも治まる。
         ☆
   村が消える   (朗読のための詩)     山崎啓

竹は/田んぽの畦にまで攻めて来ていた/大根も細くて長い牛蒡もすんなり抜ける/その段々畑も侵略するらしい  (中略)
竹薮はその昔/小百姓の次男三男によって開墾されて/いっときは荒れたままのときもあったが/そのうち疎開の学童たちによって/改めて耕された
そのとき/竹は黙って見ていた/汗水して耕して薩摩藷が植えられ/栗や黍も作られて飢えを凌ぐために/子どもたちは働いた/竹林が 棚田になり/雑木林が段々畑になって行くことに/竹は逆らわなかったのだ
だが今は違う/芒や雑草や 葛の蔓が蔓延り/どんどん藪として広がりを見せている/でも/それでも/若者たちは明日を見向きもしないで/己の今に溺れていた
竹たちは知っていた/いずれまた飢えが来る/飢餓がしのびよってきて開墾が始まる/永劫に繰り返されることを知っているから/竹は限りなく/領土を拡げて行って
  (中略)
村は何時の日からか/暮らしを失ってしまっていた/暮らしの音のない村になっていた
  (中略)
長老と敬われた村の世話人も逝った/彼岸花が萎んでしまった/段々畑の畦を枕にして/田んぼの落とし水を聞きながら/秋の夜の虫時雨に送られて……
竹は/長老の奥座敷を破り天井を突き抜いて/大空に翻った
蔓は玄関からも/裏玄関からも這い入り込み屋根にも登った
  (中略)
いつしか廃屋となった/郵便局も/色を失って傾いたままのポストも襲って藪に抱き込んだ/ただがむしゃらに
          (後略)
       詩誌 「さちや」No.139 2008.4(岐阜市)

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2008年5月 5日 (月)

文芸同人誌評「週刊読書人」08年5月9日白川正芳氏

《対象作品》「シコクイワナ」青木哲夫(「アンプレナブル宣言」13号)、「聖母子と廃本」渡辺勝彦(「R&W」4号)、「文芸批評・吉本隆明」釈恵照(「勢陽」20号)、「二度の別れ」安芸宏子(「雑木林」11号)、「評価された『枚方文学』の実績」西向聡(「法螺」58号)、「芸術家の壁」竹中忍(「北斗」四月号)、「コレクター」むらいはくどう(「勃海」55号)、「埋める」佐伯晋(「あるかいど」36号)、「上海」西芳静江(「水晶群」54号)。(「文芸同人誌案内」掲示板よこいさんまとめ)

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2008年5月 4日 (日)

農民文学賞受賞「彼岸獅子舞の村」が描く過疎の現実

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第51回農民文学賞決まる(上)=小説「彼岸獅子舞の村」の描かれた過疎の現実

 作家・伊藤桂一氏は「獅子舞行事を続けることは、村を守ること、農業を守ることに通じる。事故続出で断念せざるを得ないか、というぎりぎり場で、役員総代の息子が参加を申し出る。こうしたいきさつが綿密に、感動的に描かれている」と完成度の高さを認める。
 文芸評論家の秋山駿氏は体調の都合で、贈呈式には出席しなかったが、「若者が農家から離れて行く今日、果たしてその祭りを、今年も実行できるのか、という事態の展開がドラマになっている。(中略)しっかり明確に描き、密度がある。だから村の現状といったものが、手で触れるように感ぜられる。村は全50戸、空き家が3戸、いま47戸の村の3分の1が75歳以上の年寄りで、その半分が一人暮らしの老人、専業農家はたった3戸……」と、示された現実に驚く選評を寄稿。
 そして、「自分の知らない経験したことのない、農家の営みのことが、新聞だとただ活字であったり記事であったりしたものが、小説になると、いきいきと動き出し、生きた声を発する」と、細部にわたる表現力を評価する。

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同人誌「木曜日」第34号(豊島区)作品紹介(1)

【「転落」十河順一郎】
「誰彼きみや」という男を人間嫌いとして描く。この前半部のところが、薀蓄をくりひろげて幼少時代からの生い立ちを語る。かなり味があって、読ませる。成人して会社勤めをはじめ、人間嫌いで孤独な男が、会社のビルの管理人と親しくなり、さらに事情のある日系の東南アジア人(若い女性)と親しくなる。この辺りは、本来のきみやの性格と矛盾したところもあるのだが、仕事ぶりや偶然性を巧みに書き込んで、気にならなくする工夫があり、筆力、腕力の確かさを見せる。デテール表現の良さが小説の説得力を増している。そこから、話は殺人事件に発展する。結構いきなエンターテインメントとしても面白い。コンゲームスタイル、あるいはフランスの犯罪小説のジャンル、セリノワールとかいった味もある。同人誌でこれだけ洒落た作品を読めると思わなかった。
【「風林火山」和田英樹】
エッセイで、山梨の甲府駅前の話だが、何気なく書いているようだが、なんとなく面白く読ませる。
【「待ち人」黒田治郎】
変な女からの電話を話のきっかけにした、ちょっとした小話。軽い文体はいいが、もう少し作家的な工夫が必要では。

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「同人誌時評」「図書新聞」08年5月3日「同人誌時評」福田信夫氏

《対象作品》「きれい、ね」庄司肇(「文学街」246号/杉並区)、「ある街道記」千葉三朗(「北門文学」9号/秋田市)、「大久野島」大高みのり(「翼」32号/宝塚市)、「夫の逝去」木下径子(「街道」12号/武蔵野市)、「オレの将来」山田敦心(「城」93号/みやき町)、「十年記念日―スクランブル十年、打ち明け話」&「700歩」武田久子(「スクランブル」20号/松山市)、巻頭言「『地域文学』は可能か」&戯曲「武蔵野の家三幕」&「編集後記」神谷量平(「京浜文学」11号/横浜市)、「望郷―姫路広畑俘虜収容所通譯日記」(八)柳谷郁子(「燔火」66号/姫路市)、「『公憤と思慕と』―柳宗悦と朝鮮―」上原アイ(「文芸復興」118号/船橋市)、「銀次郎の日記―パソコンは無用の長物か」青江由紀夫(「海峡派」111号/福岡市)、「死の作法―古本屋の日記から」安田有(「Coto」15号/生駒市)(「文芸同人誌案内」掲示板よこいさんまとめ)

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2008年5月 2日 (金)

小林多喜二「蟹工船」に再脚光…増刷で売り上げ5倍

初版本の表紙が採用された新潮文庫の「蟹工船・党生活者」 プロレタリア文学を代表する小林多喜二(1903~1933)の「蟹工船(かにこうせん)・党生活者」(新潮文庫)が、今年に入って“古典”としては異例の2万7000部を増刷、例年の5倍の勢いで売れている。過酷な労働の現場を描く昭和初期の名作が、「ワーキングプア」が社会問題となる平成の若者を中心に読まれている。

 「蟹工船」は世界大恐慌のきっかけとなったニューヨーク株式市場の大暴落「暗黒の木曜日」が起きた1929年(昭和4年)に発表された小説。オホーツク海でカニをとり、缶詰に加工する船を舞台に、非人間的な労働を強いられる人々の暗たんたる生活と闘争をリアルに描いている。

 文庫は1953年に初版が刊行され、今年に入って110万部を突破。丸善丸の内本店など大手書店では「現代の『ワーキングプア』にも重なる過酷な労働環境を描いた名作が平成の『格差社会』に大復活!!」などと書かれた店頭広告を立て、平積みしている。

 多喜二没後75年の今年は、多喜二の母校・小樽商科大学などが主催した「蟹工船」読書エッセーコンテストが開催された。準大賞を受賞した派遣社員の狗又(いぬまた)ユミカさん(34)は、「『蟹工船』で登場する労働者たちは、(中略)私の兄弟たちがここにいるではないかと錯覚するほどに親しみ深い」と、自らの立場を重ね合わせる。特別奨励賞を受けた竹中聡宏(としひろ)さん(20)は「現代の日本では、蟹工船の労働者が死んでいった数以上の人々が(中略)生活難に追い込まれている」「『蟹工船』を読め。それは、現代だ」と書いている。

 また一昨年、漫画版「蟹工船」が出版され、文芸誌「すばる」が昨年7月号で特集「プロレタリア文学の逆襲」を組むなど、再評価の機運が盛り上がっている。

 新潮社によると、購読層は10代後半から40代後半までの働き盛りの年代が8割近く。同文庫編集部は「一時期は“消えていた”作品なのに」と驚きつつ、「ここまで売れるのは、今の若い人たちに新しいものとして受け入れられているのでは」と話している。(08年5月2日読売新聞)

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