同人誌「木曜日」第34号(豊島区)作品紹介(1)
【「転落」十河順一郎】
「誰彼きみや」という男を人間嫌いとして描く。この前半部のところが、薀蓄をくりひろげて幼少時代からの生い立ちを語る。かなり味があって、読ませる。成人して会社勤めをはじめ、人間嫌いで孤独な男が、会社のビルの管理人と親しくなり、さらに事情のある日系の東南アジア人(若い女性)と親しくなる。この辺りは、本来のきみやの性格と矛盾したところもあるのだが、仕事ぶりや偶然性を巧みに書き込んで、気にならなくする工夫があり、筆力、腕力の確かさを見せる。デテール表現の良さが小説の説得力を増している。そこから、話は殺人事件に発展する。結構いきなエンターテインメントとしても面白い。コンゲームスタイル、あるいはフランスの犯罪小説のジャンル、セリノワールとかいった味もある。同人誌でこれだけ洒落た作品を読めると思わなかった。
【「風林火山」和田英樹】
エッセイで、山梨の甲府駅前の話だが、何気なく書いているようだが、なんとなく面白く読ませる。
【「待ち人」黒田治郎】
変な女からの電話を話のきっかけにした、ちょっとした小話。軽い文体はいいが、もう少し作家的な工夫が必要では。
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