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2008年3月16日 (日)

菊池寛「日本文学案内」日本の現代文学概観(8)

A 古典主義(承前)
 古典主義の特色として、統一均斉、調和、明晰、沈静、古雅、節度、簡素が喜ばれ、形式と技巧とが極度に重大視された結果、内容がうつろで物足りなく、理智と客観が冷たく支配して、個性は全然息の根をひそめてしまった。コルネイユ、ラシイヌ、モリエール、ラ・フォンテーヌの17世紀古典主義最盛期を過ぎて、18世紀に入ると、もう法則だけが残されて、内容は見るに堪えるものがなくなった。英国では古典主義作家はドライドン、ポープ、アヂソン等があるが、中でもポープは作物に、不自然極る、一間滅茶とも思われるほどの模倣が目立って、擬古主義の旗頭といわれていた。

 文学の形式は更新されなかったが、18世紀は革命の胚胎期でモンテスキュー、ディドロー、ヴォルテール等の啓蒙主義が盛んに行われた。英国でもヒュームやロックの理神論が起った。17世紀が文学芸術の世紀であったのに反し、18世紀は観念的なものが特に顕著に見えるのである。こうした空気はドイツに伝わり、啓蒙主義の思潮を詩的に表現したレッシングはまたドイツ国民文学の建設者であった。と同時、レッシングはギリシャ、ローマの文学的教養を積み、ドイツにおける最初の古典主義芸術家でもあった。彼は創作家であり、思想家であり、芸術批評家であり、シェイクスピアの偉大さに初めて著目し、師表と仰ぐべきことを力説した。「ラオコーン論」は造形美術との区別を論じたものだが、ドイツ古典主義の聖典となった。

レッシングとともに古代ギリシャに心酔し、典雅沈静の趣きを伝えたのはウィンケルマンで、後のゲーテに影響を与えた。ゲーテ、シルレルはシュトウルム・ウント・ドランクの時代にむしろ浪漫的な激情に駆られたが、両者とも中年期に達して、ドイツ古典主義を大成した。ゲーテは「どこからどこまで卒のない作品こそ真個の古典だ」と言ったが、ドイツの古典主義はゲーテ、シルレルが出て、黄金時代を現出した。永遠なもの、永続的なもの、合法的なもの、人間的なもの、偉大なもの、高尚なもの、調和と均斉と形式美を具備したものへとドイツの文学は転向した。

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