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2008年3月23日 (日)

「辞める理由、続ける理由」(7) 麻葉佳那史

 火曜に出勤すると、「土曜に来た人から、もう来ないと電話があったのですが、よかったら新人が来るまで、昼夜通しでしてもらえませんか」とホール係の人に頼まれた。私は富田さんが来ないのはわかっていたので別になんとも思わなかった。それに昼夜通しの件については承諾した。
 昼だけではたいして疲れなかったし、夜もすれば収入も増え、また夕食も摂れる。いままで新人は早く来てくれたからそれまでの辛抱だとたかをくくっていた。
 二千一年(平成十三年)六月に、生れてから住んでいた鳥越の長屋の借家を引っ越し、蔵前のマンションに移った。住宅ローンを組み、早期退職金はすべてその返済にあてたが、まだかなりローンが残っていた。その返済と生活費を稼がねばならなかった。住宅ローンを組んだ時は、定年後は嘱託として給料は下っても働けるものと予定していた。リストラされるとは思ってもみなかったのだ。
 引っ越しの時、両親はすでに他界し、妹は嫁いでいて、私は一人暮らしなので身軽だった。
 昼夜通しになり、はじめはラクに感じたが、しだいにツラくなってきた。家は寝るだけ、休日は洗濯、掃除、炊事、そして晩酌で終った。脚がきつくなった。階段の昇り降りにらせん階段以外の場所には手摺りがない。緊張しているから脚をあげさげしていられるが仕事を終え外に出ると歩みがのろくなる。足裏が痛くなり、信号の所や駅で障害者用の突起の出ている箇所に万一そこを踏むと飛び上った。仕事場から電車の駅までゆるい上り坂になっているので、暗いまちをゆっくり歩いて行った。
 土日祝日の婚礼のある日は朝四時に起床するが、前の晩、仕事を終えて帰宅すると零時前後になるので寝る間がいくらもない。出勤の電車で仮眠をし、乗り越してしまったこともあった。
 だからといって時給はかわらない。朝六時ごろタイムカードを打とうと、また二十三時ごろ仕事を終えても割増給があるわけでもない。昼と夜のあいだに休憩のとれない日があろうと給料計算上では休憩をとったことになっている。そういうことを考えると、肉体の疲れのほかに精神の疲れがじわじわ背中にひろがってゆくのを感じた。(つづく)

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