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2008年3月18日 (火)

「 辞める理由、続ける理由」(2) 麻葉佳那史

 岡本さんに十六時まで教えてもらいながら一緒にできるのかと思っていたら、十時半ごろホール係の人が岡本さんに上るようにいい、あとは私一人になった。岡本さんは夜担当なので十六時ごろ再び出勤するといって帰って行かれた。
 十一時から従業員の昼食がはじまる。プラスチック製の皿や椀などが戻り、また調理道具の鍋やボール、おたまなどが来、それらを洗う。洗っているうちに、客の前菜の皿や銀製のフォーク、スプーンが来る。営業が始ったのだ。
 額に汗をためて作業をし、食器や道具の収納場所をホール係の人に聞きながら片附ける。段差の多い床のうえに、高所にある棚もあって、いちいち椅子や台に乗らねばならない。
 従業員通用口をはいると、そこは地下一階で、客用正面玄関が一階にあり、調理場は一階にあるが、その一階も平坦ではない。
 皿を収納する場所を探すのと歩くのとの両方に緊張させられる作業だ。
 だが失業の一年間、交通費を浮かそうとなるべく歩いていたので、脚にはやや自信があった。
 十六時ごろ、ホール係の人に呼ばれ、翌朝出勤してからの仕事の順序を教えられた。それからタイムカードを打って上った。たいして疲れていない。前の会社では倉庫で入出庫作業で動きまわっていたので、それがよかったようだ。
 翌朝の仕事のことを考え、八時半ごろ出勤することにした。
 翌朝は、だが一人ですると思った以上に時間がかかり、あくせくしなければならなかった。洗浄機が動くよう準備してから、掃除機で階段を二階に上り、廊下、客室を掃除し、次にトイレ掃除をする。掃除が済み洗い場にはいったら十時半になっており、前夜の分の皿やコーヒーカップ、ナイフやフォークも多く、十一時になっても食事どころではないが、急いで食事を済ませ、下がってくる食器や調理道具も洗いかつ拭かねばならない。そうして収納だ。こういうことではたしてこれから続けていけるのか心配になった。
 だから十六時に上ってタイムカードを打ったときはほっとひと息ついた。
 営業は昼は十一時半から十五時半まで。夕食は十八時から二十四時までと分かり、岡本さんが上ったあと食器やナイフなどが多く戻るのだ。
 また会社は年末年始のほか休日はなく、従業員が交代に休むシフト制で、その出勤表が壁に貼ってあり、それを見て私も休日をとるよう岡本さんに教えられた。休日は一日で、朝ゆっくり起きて、家事などしたらたちまち終ってしまうのだった。それでも仕事をしているからこその休日の有難さを感じた。(つづく)

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