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2008年3月 9日 (日)

同人誌「岩漿」16号・第2期創刊号(伊東市)作品紹介

本誌は、随所に伊豆地方の風土の匂いのする作品に満ちた同人誌である。
【「あなたの心の片隅に」岩越孝治】
麻紀が家に帰ると、兄が父親を殺してしまっていた。兄は麻紀の幸せを願って刑務所に入る。それが序章で、この麻紀をめぐって、様々な人情話的な物語が展開される。60ページに及ぶ物語で、随所にドラマチックな過去をもった人物が登場する。いわゆる若者の世代に流行っているライトノベルやキャラクター小説のジャンルで、起承転結はきっちり仕上がっている。

大塚英志「キャラクター小説の作り方」(角川文庫)で、=特に東浩紀くんが指摘したように今日の作り手の大半は「ギャルもの」なら「ギャルもの」の既存パターン、ファンタジーならファンタジーの既存パターン中のみの順列組み合わせにのみに固執してキャラクターを作ろうとする傾向にあります。だからこそそのリストにない、パターンを「作り出す」のではなく過去の作品から「発見」することが出来れば、「スニーカー文庫のような小説」というジャンル内では充分に通用する「オリジナリティ」となるのです。=と記している。同時に大塚氏は、そのなかで、評価される作品には、その人にしか生み出せない何かあるとも説いている。
それが何かが、問題だが、この作品には、これから発展させることが可能であろうと思わせる才気が感じられる。
純文学的な小説作法から判断に、こだわらずに創作を追求することも重要である。ウィリアム・マッキバーンという作家は、読み捨てのペイパーバック用のハードボイルド小説パターンから登場したが、そのパターンのまま、「殺人者はバッジをつけていた」、「明日に賭ける」などで、悪徳警官、人種差別の感情の坩堝を描き純文学を超える作品を書いた。

【「幻の金」深水一翠】
トンボ採りの少年たちに、男はその分類や性質などを教えている。それが、面白い。そして、男は自分が少年時代に、夏休みの宿題に昆虫採集をしてコンテストに3等の赤紙に入賞したことを思い出す。その翌年は、金賞をとってやろうと、懸命に標本作りをする。ところが、家に置いてあるうちにネズミに食い荒らされて、壊されてしまう。50年後の今でも残念さが消えない、というもの。読んでいても残念無念さが伝わってくる。風土記としても秀逸。こういうものは、読者の作品の印象にも、やはり強く残るものだ。

【「リスちゃんにお小言」ひらたまさこ】
可愛いと思っていたら、タイワンリスが害獣化している話。ニホンザルが居なくなったそうで、生態系の変化には激しいものがある。

【「職場で思うこと」日吉睦子】
 観光客相手の仕事なのであろう。昔と違って、年寄りから若者まで、刺々しい感情を持つ人が多いことを実感するもの。日本は、経済大国になって、失ったのが心の平穏である。

これを読んで思うことがある。やれ「アメリカが日本を軽視するから大変だ」。「中国経済に乗り遅れると大変だ」、「資源を確保しないと大変だ」と騒ぐが、「日本人の心が病んでいるから大変だ」とは騒がない。ジャパンパッシング結構ではないか、戦争に巻き込まれずにすむ。世界の流れに乗り遅れて結構ではないか。日本の文化は徳川300年の鎖国で、300年世界の流れに遅れたから出来た。今はそれを切り売りし、世界に売るものがなくなってきたのである。もう一度鎖国をして文化を充電する必要があるのではないか。

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