同人誌「海峡派」第111号(北九州市)作品紹介
【随想「銀次郎の日記―パソコンは無用の長物か」青江由紀夫】
会社の重役として、社員教育などの仕事をしながら、短歌、川柳をたしなみ、宗教書など難しい書物を読破することを自らに課している。かなりの知識欲の衰えない知識人生活を描く。デック・ミネや詩人・佐藤惣之助、西条八十の作詞の曲に思いを寄せる。パソコンを2年前に買って、使い始めたのだが、自らの名前をヤフーで検索すると、ペンネーム5件、本名で40件ほどなので、なんとか文筆で100件は件数が出るようにしたいと思う。とにかくラップ調のノリの良さで、現代シニア層の生活の一端がよく表現されている。
【「ワラシ・ファミリー」坂本梧郎】
中年夫妻のペット犬がワラシーである。ワラシーの出産から、仔犬の生育状況まで、家族と同様の存在として描く中編小説。人間の生活をこのスタイルで描いたらどうなのだろう、という感想も湧く。ペットとの生活が大変な努力が必要なことがわかる。人間は時間の過ごすのに必ずしも楽な道を選ぶとは限らないものらしい。
【「ジャック・ポット」石谷富士夫】
冒頭からこうある。「38年間、ひた走りに走り続けてきた特急列車は、終着駅のプラットホームでぴたりと停まった。そこから線路はなかった。北九州小倉のKホテルで取締役支配人だった石戸はついに運命の日を迎えたのだ――」。
こうして主人公の定年後の生活ぶりが描かれる。お話の出だしに、分かりやすい工夫があるので、その先を期待して読める。ゴルフが好きで3カ月で50万円を使ってしまい、反省したりするので、かなりゆとりのある生活である。
そのあたりから、話しは昨年あたりからの政局の動向を逐一書き留めていく。安倍元総理の躓きの元として、本間、佐田、松岡、赤城とそれぞれメディアを賑わした面々の経過は、「ああ、そんなこともあったな」と読むほうも感慨が生まれる。そして、福田総理からTV番組で「みのもんた」が発信する「世論」を評価する。その間に、小説を書く。創作には、息抜きも必要で、ヒマをみてはパチンコに行く。その日はフィーバーして大当たり。勝ち組になる。すると、そこに、有り金をスッてしまった負け組みの女性から、資金を目当てに、お遊びに誘われるのである。さて、これはどうしたものか?と迷うところで、終わる。読後、さて、自分ならどうするか?と考えてしまう。その意味でなかなか余韻のある終わり方である。
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