詩の紹介 「千の風」 作者 桑原真夫
(紹介者 江 素瑛)
この詩は、死者がどこにも行かずに、そこに存在することを語る。
如何なる方法にしても、生きている誰でも立証できない死後の世界、想像しか存在しない死後の世界。遺灰が安置されたお墓には、死者は生前に居たようには居ない。
しかし死後はどこに行っても構わないが、生者に対してお墓という「有」の形に残れば、名残と慰めになる。
お墓の中に居るにしろ、居ないにしろ、愛する者に対する想念は、変わらない。
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「千の風」 桑原真夫
南風椎が千の風を日本語に翻訳して早十ニ年が経つ/今ではすっかり有名になった千の風/知人の父の通夜に流れていた/グレゴリオ聖歌のような真宗高田派の読経/その後に千の風のピアノが流れる・・・・
私の墓石の前に立って/涙を流さないで下さい。/私はそこにはいません。
伊勢神宮の鬼門の後背に/内宮を包み込むような朝熊山/その山頂に九世紀建立の古刹、金剛證寺がある/林立する卒塔婆のあいだに/いくつもの苔生した墓石/そのひとつに思いもかけない歌
死にはせぬ/何処へもいかぬ/此処に居る/呼べば答ふる/山彦の聲
焼かれ砕かれて灰になる/そして私はどこに行くのであろうか/あるいはどこにも行かぬのであろうか
ふと目をあげると/その遺影が/にこやかに笑っていた
詩誌 岩礁134 より ( 2008春 ) 三島市・岩礁の会
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