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2008年2月 1日 (金)

同人誌「孤帆」12号(東京都)作品紹介

【「ドレイ・アッフェン」奥端秀彰】
東京のホテルで働く若者のその仕事ぶりと、環境を描いている。安ホテルらしいが、外国人も少なくない。主人公の屈辱的感情へこだわりが、こだわるためのこだわりで、物語の味付けにしているような書き方。ホテルの内の出来事が、異国の出来事のように見えて、面白い。都会に働く人間の窒息感との戦いが色濃く描かれている。
【「影の微笑」北村順子】
主人公の礼子は、事務機メーカの支店に勤めて25年。最近まで母親の介護をして暮らしていたが、その母も亡くなる。古い住み慣れた団地は、高齢化がすすむ。同じ団地で一人暮らしをしていたらしい絵沢さんという82歳の老女は、出かけたきり行方不明になって、福祉担当者がさがしている。ある日、灯りの見えない絵沢さんのところの窓に光がともる。彼女が戻ってきたのかと行って見ると、彼女と40年来の付き合いだという80歳の女性が留巣を守って、入りこんでいたのだった。よく話を聞くと、礼子がラジオの投書を読む番組を好きで聴いていたが、そのなかの味わいのある投書の主は、江沢さんとその友人とが、相談して物語を作って投書し、放送されるのを楽しみにしていたという。日常生活の小説として、じつに面白い。礼子の母親を亡くした喪失感に映る人生の悲哀や温かみがしみじみと伝わってくる。出来事がありそうでありながら、小説的なのが惹きつけて読ませるものになっている。
【「いつも誰かが見ている」塚田遼】
 高校生の頃からの生活のなかで、破目を外しそうになると、誰かの視線を感じて、やりすぎを避けることが出来ている。社会人になっても、誰かが見ていると感じることで、破滅寸前のところで思いとどまる。そうした出来事が繰り返され、郷里に戻ったときに、母親から自分の出生の秘密を知らされ、いつも自分を見ていたのが誰かがわかるという物語。オカルトミステリー風な味わいがあって、とても面白い。特に、誰でも体験せざるを得ない、また起こしやすいミス、魔がさすような危ない縁を渡ることが少なくない。その状況設定が実に巧みで、効果を上げている。自分もいつも誰かに見られているのかも?と思えて楽しい味わいがある。
【「わたしのいた時間」淘山竜子】
 晴子という若い女性の仕事と男女の肌の手触りの伝わる交流関係を緻密に描く。ある時は、気分の流れにまかせて、しかし大志や冒険にかかわることのない女性像をリアルに描く。現代の風俗の描写として、見事な表現力をもつ。しかし、その先の展望が見えない。もっとも、それが現代人の姿でもあるのかもしれない。作中の人物よりも、作者が小説に傾ける情熱を感じ、読者として、それを受け止めることのほうが小説より面白いというのは、ある意味で困ったものがある。


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