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2008年1月25日 (金)

池澤夏樹さん個人編集『世界文学全集』記念シンポジウム

作家の池澤夏樹さん個人編集の『世界文学全集』(全24巻、河出書房新社)の刊行が始まった。刊行記念のシンポジウム「世界解釈としての文学」がこのほど東京都内で開かれ、池澤さんと東大教授の3氏、柴田元幸さん(アメリカ文学)、沼野充義さん(スラヴ東欧文学)、テッド・グーセンさん(日本文学)が刊行の意義などを話し合った。
 ◇一番多様性ある/世界の見方が表れた/違いの中からリアルな世界
 「ポストコロニアリズムとフェミニズム。全集のリストをながめると、二つの傾向が歴然としている。編集の途中では気がつかなかった。内なる尺度に従った結果です」
 フランスから一時帰国した池澤さんが語る。世界文学全集という古くて新しいテーマやパネリストの顔ぶれが人気を呼んだのか、会場になった東大本郷キャンパスの教室は平日にもかかわらず満席だ。
 世界文学全集といえば、ギリシャ悲劇やシェークスピアから始まる欧米中心の古典的名作を集めるのが定番である。しかし、21世紀に入って初めて国内で編集される河出版全集は36作品を収め、20世紀後半中心。クンデラ『存在の耐えられない軽さ』など新訳、バルガス=リョサ『楽園への道』など初訳、クッツェー『鉄の時代』など全面改訳が36作品の約半分を占めるのも大きな特徴だ。
 キーワードの一つが「カノン」である。カノンはもともと宗教の「正典」を意味し、ある時代に価値があると認められた作品群を指す。シンポで池澤さんは「従来の世界文学全集は白人の死んだ男の物語ばかりだといわれる。女性の作品もなかった。欧米と男性中心の文学。そんな旧来のカノンへの批判も込め、いまの世界を読み解く作品を絞っていった」と語る。
 続いて発言したグーセンさんは「リストを見ると、アジア、南米、アフリカが目立ち、なるほど、と思った。これまでの世界文学全集で一番多様性があり国際的だ」という。
 沼野さんも「時代を超えた価値観の体系などありえない。それぞれの時代の価値観やイデオロギーに合わせてカノンも変わっていく。今度の全集には、池澤さんが世界をどう見て、どう切り取るかが端的に表れた」と評価した。
 柴田さんは「世界は私にとってこういう感じです、という自由研究の発表のようなものだと思う。24巻が対話し合って、違いの中からリアルな世界が立ち上がってくる」と感想を述べた。池澤さんは「私たちの読むべき本が以前とは変わったことを全集で表現できた」と手応えを語った。
 「なぜ日本人作家を入れない?」とグーセンさんに聞かれた池澤さんは「文学を『世界』と『日本』に分ける日本の慣習を踏襲した。もし日本人を入れるなら、村上春樹、大江健三郎、中上健次から各1作。それに石牟礼道子『苦海浄土』。4作のうち1作を選ぶなら『苦海浄土』」と語って会場をわかせた。
 池澤さんは「ケルアック『オン・ザ・ロード』(初回配本)がいい例ですが、移動によって何かをつかむ。『世界文学全集』収録作品のほとんどの主人公が動いている。境界線を越えようとする。期せずしてそんな作品ばかり選んでしまった」と締めくくった。
 『世界文学全集』は池澤さん自らの文学の営みを映す鏡でもあるのだろう。今後、1、2集各12巻を2年間で完結させる。(毎日新聞08年1月24日夕刊・米本浩二記者)

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