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2007年12月25日 (火)

作品紹介・同人誌「胡壷・KOKO」第6号(福岡県)

【「最後の夏」桑村勝士】
高校生の剣道部員。男子生徒の卒業前の全国大会に出場するまでの物語。体育系の部活中心主義の生活と意識が臨場感をもって表現されていて、登場人物の展開するドラマを楽しめる。この作者は、筆致に緊張感があり、その味わいが読者を物語にひきつけて興味をそらさない。
緊張した場面はもちろんであるが、それだけでなく、どの場面においても読者を引き込むテンションを持続しており、それが大いなる長所であることを実感させる。

【「像のテラス」ひわきゆりこ】
私の体験する人間関係を描く。ユウコという見知らぬ少女との出会い、サトルという恋人との出会いと別れ、アルバイトの勤務先の雑貨店の女経営者の店じまいする姿、それらはかなり希薄な関係でしかない。私という人間の粘っこさのない性格ゆえに、どろどろねちねちとした関係になりえないところに、常識の範囲での軽みと爽やかさが漂う。これも現代人のひとつの姿ではある。ただし、その代償として風になびく葦のような頼りない人間関係に寂しさが伴うことを示している。クレバーなライフスタイルの陰に、情熱を注ぐことに対するリスクヘッジをもつ侘しさを提示する。しみじみとした味わいが感じられた。

【「水の音」納富泰子】
 主人公の秋江は、両親の亡き後、実家で年下の夫と暮らしていたが、子供がなく、そのため夫は子供の産める女性と結婚さるため、彼女を捨てて去ってゆく。残されたのは、家族となった飼犬のリュウである。生活は親の資産で十分であるが、夫は幾ばくかの慰謝料を律儀に振り込んでくる。音大を出ている秋江は、自宅で歌のレッスン教室をしていたが、離婚後、気鬱のためやめていた。そのうちに、知り合いから頼まれて舜美という若い女性を引受ける。彼女は風水を習っていて、秋江の家に起こる霊現象の預言をしたり解説も行ったりする。
 なんといっても読み応えのあるのは、飼犬リュウの老衰し、足が動かせなくなったのを帯で吊り上げ支えて、その最期までの散歩と介護をする過程である。まさに生を支えるための戦いである。犬も飼い主も、いずれは死ぬ身であるが、そこまでの過ごし方がいかに重要かを示して見える。ここでの文体は泉から湧き出る水のように透明である。読者の喉を潤す。
 
人生は、いつも前向きで明るく過ごし、読み物は面白くてはならなない。たしかに、そうなのであろう。面白おかしくない本は売れない。愉快に暮らせない人生なんて意味がない。しかし、人生はそれほど面白いことばかりではない。本当は、つまらないものなのかもしれない。ほんとうに人生のすべてが面白く楽しいものであるなら、本誌に評論のあるようなグリム童話のようなものを、人は読んで過ごす必要はない。つまらない人生の彩りに童話が残ってきているのだ。面白くもない黄昏のなかに、ちょっとした光があれば生きられる。そんなことを考えさせる本誌第6号である。

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コメント

ご批評をいただき、ありがとうございます。
読んでくださった方からご意見をいただくことは、拙作を振り返るうえでとても大切なことだと思います。
ご意見を励みに、少しずつですが、これからも書き続けていきたいと思っております。


投稿: 桑村勝士 | 2008年1月 4日 (金) 19時26分

書店にいくらでも興味を惹く小説が氾濫しているなか、九州の片隅でひっそりと出している同人雑誌は、読んで戴くだけでも有り難いことだと思います。それをこのように、ひとつひとつの作品に関して、まるで両手に掬い取るような温いご感想を戴きましたこと、感激しております。
どの作品にもやはり欠点もありますので、私たちも熱のある居酒屋例会(みな話したいことがいっぱいで、すごく盛り上がります)を開き、お互いに率直に言い、ひと
まず素直に受け止めて、う~んとうなり、悩み、それがまた、「先に進むぞ」という充実した気持ちにつながります。

小説を書くには、気力も体力も必要です。「作品を読んで戴いた!」という手応えは、その気力体力の素となります。力を戴き、とても嬉しく思いました。 

投稿: 納富 | 2007年12月29日 (土) 15時54分

拙誌「胡壷・KOKO」の評をありがとうございます。丁寧に読んでいただき、重ねて感謝いたします。
面白い読み物も必要ですが、それだけでは収まりきれない気持ちを抱えながら、みんな生きていますよね。いつも前向きで明るく過ごすのは難しいし、とても疲れそう。面白おかしい作品を書いてみたいという欲求はあるのですが……。

投稿: ひわき | 2007年12月28日 (金) 10時34分

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