単行本「槿域の女」田川肇(鶴書院)紹介
同人誌発表作品の単行本化小説集である。あまり、すいすいと読むことができる文体ではなく作品は、時間をかけてゆっくり読むことを求めているようである。
副題に「朝鮮半島小説集」とあるが、著者は日本人である。四つの短編かなり、それを読み合わせると、両親が戦前に朝鮮半島に渡り、作者はそこで生まれ、戦後引き上げてきたらしい事情が読み取れる。従って、昭和初期の日本と朝鮮との関係を全人格的に体験したところか生まれたもので、その時代の緊張感をそのまま溶解させずに文体に反映させているところに特徴がある。日本人としての歴史的な加害者意識と自らの故郷意識と朝鮮民族の被害者のはざまで、現代の韓国人との交流を描く。被害者の痛みに敏感に反応し、同化してしまう微妙なところを描くことで、独自の文学的表現を達成している。
| 固定リンク
コメント