文芸誌「照葉樹」4号(福岡県)
【「ともがき」水木怜】
洋輔、王丸、青木などの中学生たちの話。いたずら好きで、悪がきの仲間のように見えるが、それぞれ親が離婚した母子家庭など、恵まれた家庭ではない。それぞれ、水の洩れる難破船の海水を外に汲みだすように、それなりに母親との関係を維持しようとしている。
子供の視点から、現代の親の世代の問題を描き出す。洋輔の父親の性格が、いかにも自己中心的で、現代的なのが面白く表現されている。こどもにとって、親は選べない、その親を思う心を軸に、先の見えない人生を、それでも希望をもって生きて行こうとする、中学生の姿をけなげな姿勢をもたせて描く。時々、大人びた部分が描写に顔をだすが、味わいのある作品。
【「階段」水木怜】
聡子の夫は、45歳で亡くなり、13回忌を済ませたばかりの2年前に脳梗塞で倒れ、身体がきかなくなる。さらに息子が25歳の若さで、交通事故で死んでしまう。彼女は、2階に閉じこもりヘルパーさんの世話になっている。夢うつつに、毎日夫と息子の幻影をみて、会話を交す日々。
そうした生活から、ヘルパーさんや知人との交流をとおして、気鬱から抜け出し、階段を下りて外界との交流を開始じはじめる。年老いて、生活の夢を奪われ、身体が不自由なった状態の心理をていねいに描く。それだけのことだが、ただひたすらに生きることの意味を示した、手堅い短編である。こうした場合、あなたはどうする?という問いかけも内包している気もする。
【「朝戸風」垂水薫】
両親の期待を裏切って、高校を中退してししまった明日香。法律事務所に勤めながら、弁護士を志望する父親は勉強に明け暮れる。
その父親を立て、逆らわないようにし、家庭の平和を維持しようとする母親。明日香は、家に閉じこもるため、母親依存性が強まり、母が家にいないと不安になる。
母親は、スープのタネに鶏の骨ガラだと思って、買ってみたら鶏の頭の集めたものだった。母親は驚いて捨てるが、明日香は彼女が外泊する夜、独りになった夜、その鶏の頭部を煮込んでスープをつくってみる。
切り落とされた鶏の頭の集まりと、その目は社会的な外部からの視線に重なるものなのか、このエピソードが面白い。いずれにしても、お互い依存しあう関係のなかで生きている。命と人間愛の火は、個人のみの単独者の世界では生まれない。薪が燃えるには、酸素と火種に依存して生まれる。家族の人間関係において、相互依存で生きる人間の原点をさし示してみせたようにも読める。
3篇とも、丹精こめて書いた好短編で人生の諸相がゆっくり楽しめる。
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コメント
「照葉樹」4号の紹介と書評を賜りありがとうございます。
発行のたびに、紹介していただき、感謝しつつ、いつも読ませていただいておりました。早いものであっというまの4号ですが、次回はもう5号。来年4月15日と決まっております。がんばります。
投稿: mizuki | 2007年11月10日 (土) 08時10分