同人誌「獣神」31号(埼玉県)作品紹介
【「石のある風景」澤田よしこ】
戦時中に、農村の医師となった直弘の視点で、村の人々の素朴で平和な生活を描く。戦争の気配を遠くに置くことで、平和な生活を浮き彫りにしている。冒頭の澄んだ川底の描写がすばらしく美しいのが印象的。
【「たんぽぽ」伊藤雄一郎】
栄養士の女性が、末期がんの男の頼みで、男がかつて、恋人でありながら見捨てしまった、女性の墓参を頼まれ、墓に咲いていたタンポポを摘んで帰り男に渡すと男はそれを胸に息を引き取る。ちょっと変わった味の短編。
【「雪に坐る」通雅彦】
昭和30年代の病院勤務の医師の実態が、人間くささを強調した手法で、詳しく描かれ、興味深く面白く読んだ。
【「愛しい人」野田悦基】
皇居を守る皇宮警察官の視線で、老彫刻家とその娘の生活ぶりを描く。闊達な文章で、尾崎士郎の「人生劇場」を読むような面白さである。
【「銀次郎の日記―友人の病気と人の寿命~」青江由紀夫】
入れ歯と費用と寿命の話から始まり、文学の善し悪しと売れ行きの関係まで、話題は幅広い。石川啄木は死後50年経って短歌や詩が売れるようになったので、自分の詩歌が大勢の人に読まれていることを知らない。そんなことなどを思い起こした。
「獣神」発行所〒埼玉県所沢市上安松1107-4、編集責任者・伊藤雄一郎。
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