同人誌「砂」第105作品寸評(1)
(筆者=中村治幸氏)
【随筆「鶴爵」國分 實】
まず冒頭が良い。「文は人なり、という。(中略)どんな綺麗ごとが書かれていても、いっこうに香気の感じられない作品がある。(中略)作品の気品というものは、生きた恐ろしいものなのだ」同感する。
さらに「私は酒が大好きである」と書かれ惹かれて読み続けると(黄鶴楼)という漢詩の引用があり、仏典の「自受法楽」「衆生所有楽」の解釈があり、教養の広がりを見ることで作者の人生の年輪と文章に気品を感じた。
【随筆「子供のジャングル」望月雅子】
三女暁子が長姉の小学六年生のころの優子が 初めての西洋料理に「オムレツとキャベツの千切り」等を作った時のことを懐かしくかつ暖かに語っている。その姉が早逝したことがなおさら作者の身に染みる思い出になったのに違いない。
【小説「対 決」牧野 誠】
柳 金吾は御継子問題のため、江戸表一派の実子擁立論を掲げる葉沢十三郎と決闘する。その中にあって、竹馬の友と命の遣り取りをしなくてはならない侍の宿命に非情なものを感じる。その江戸表一派が敗れると、江戸上屋敷の筆頭家老、安藤但馬守は主君の甥、綾太郎十歳と雪姫八歳の婚礼の後、真壁出羽守に遺恨晴らしのため斬りつけて倒し、但馬守も出羽守の小姓の一人に討たれる。剣戟の場面の描写に迫力がある。金吾の視点を通して侍の愚かしさを描いている。
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