「メディア市民革命」で,どう変わる(東京新聞より抜粋)
(東京新聞07年9月17日付)インターネットでだれでも不特定多数に向けて情報発信できる「メディア市民革命」で、政治や社会はどう変わるか。インタビューで探る。ネット経済を説明する「ロングテール」論の発案者でハイテク関連の人気雑誌「ワイアード」編集長クリス・アンダーソン氏(46)。(聞き手・池尾伸一、サンフランシスコで)
――マスメディアのシェア低下による影響は。
「消費者の選択の幅が飛躍的に広がることで、マスメディアが提供してきたベストセラー小説やヒット映画などの役割は縮小する。実際、音楽業界では、二〇〇〇年に年間ベストセラーCDの一位から五位までが合計三千八百万枚も売ったが、〇五年では半分の千九百万枚しか売れていない。TVでも、昨年の冬季オリンピックの視聴率は前回大会に比べ半分近くに下がった。大人から子供までだれもが知っている曲やTV番組などは少なくなる。二十世紀型のベストセラー時代の終わりだ」
「一方で、ネットメディアやブログにより、人々の特定の興味に対応するニッチ(すき間)的な情報発信の役割が増大する。たとえば私はレゴ(プラスチック製組み立てブロック)が趣味だが、レゴ専門の雑誌は経済的に成り立たないが、ネットなら成立するという具合で、メディアの数は無数に増える」
――文化への影響は。
「米国で雑誌は七千種類発行されているが、ブログはその一万倍の七千万。TVチャンネルは数百だが、ユーチューブへの投稿ビデオは何千万本だ。CDショップで音楽は五万曲分しか売られていないが、ネットでは千二百万曲が買える。選択肢は飛躍的に広がっており、混沌(こんとん)の中から、新しいアイデアも生まれやすくなる。多種多様な意見が出てくることは民主主義にとってもよいことだ」
――従来型マスメディアは生き残れるか。
「わたしが編集長をしている雑誌『ワイアード』の場合、ネットができないことをやっている。記者を何カ月も一つの記事に専念させ、未来を探るような深く長い記事を書き、斬新なデザイン、写真と組み合わせて提供している。読者の細分化した興味に応えるため、ハッカーや軍の技術など特定分野のブロガーを雇い、雑誌より多様な記事を提供。読者にも書いてもらう仕組みを作り、よりニッチ的な興味に対応している。ブログもマスメディアも入り乱れて競い合う時代に突入している」
<メモ>ロングテール インターネットを利用したネット販売では流通や在庫のコストがあまり掛からないため、企業は従来のヒット商品を大量に売る「少品種大量」の販売方法から、「多品種少量販売」に切り替えを迫られるという理論。本から音楽までさまざまな商品にあてはまることから、同名の著書は世界的ベストセラーとなった。
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