同人誌「創」第2号(名古屋市)作品紹介(4)
【「黒水城異聞」白井康】
中国大陸のロシアやモンゴルが拮抗していた時代を舞台にしたSF的要素のある物語。井戸を掘るのに、そこに水があることを見つける才能のある男が、タイムスリップして大将の娘を嫁にもらって、帰ってくる。なんとなく面白く読んだ。井戸を掘れば必ず水を探り当てるという、才能を持った男という設定が、興味をそそる。なぜこれが面白く感じるか、というと、おそらく現代では、特殊な才能を持った者(野球のイチローや松坂のように)が世間で活躍するのが大ニュースになる傾向にある。
これは現代社会において、なぜその人が世間から尊重されるかが、はっきりしているからであろう。その反対に、官僚や業界などで、帝王とされる人物が幅をきかせていることが多く見られ、その人達が、必ずしも実力主義ではなく、世渡りの巧さのみで、社会的な地位や利得を得る事例が多いことの反映かもしれない。
【「火つけ」二宮大己】
江戸時代の市井人の話で、大工の八五郎は、大工の腕ひとつで、故郷に仕送りし、独身ながら、飲み食いに不自由をしないで、のん気に暮らしている。相変わらず江戸の町は火事が多い。そのため八五郎の仕事のタネは尽きないらしい。なぜ、八五郎が有卦に入るほど火事が頻発するのかを考えさせるところで終る。時代物の形であるが、現代社会でも、複雑な利害関係のなかに、単純な仕組みがあって、メディアが問題にしないので、問題にされないという、不思議な出来事も少なくない。作品は、さらに工夫があってもよさそうだが、読者に考えさせるには、これでも良いような気がする。
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