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2007年10月20日 (土)

同人誌「季刊遠近」32号(東京都)作品紹介

【「プシュケー」安西昌原】
中学校教師の「私」の教員生活と家族生活、若いときの生徒だった女性との交流が、地道に手堅く描かれている。妻をなくし子供とも離れて暮らすようになった晩年に、女性生徒だった昭子という人との同宿の機会をもつが、男女関係までに至らず、その後の交流が途絶えるまでを描く。流れはいかにも現実的で、自然で足が地についている。小説的飛躍のない自然主義的手法を堅持しているのが、長所でもあり、面白さに欠ける点で短所でもある。

【「日暮れまで」河村陽子】
昭和23年に篤子と善太は結婚式を挙げた。それ以降の60年にわたる家庭生活のなかでの、夫婦関係の良いあり方を模索する篤子の視点から、彼女のこれまでのさまざま工夫と感慨を描く。篤子は、かつてはビジネスにおいて、キャリアウーマンとしての生活のなかで、夫とは寝室を別にしてきた。しかし仕事を退職し、子供達が独立てみると、夫との別寝室は、なにかわびしさを感じ、寝所を同室にすることを考える。しかし、夫の善太の方は、長年の習慣に慣れて、一向にその気はないらしい。その経緯や感慨が現在形で表現されているところが優れている。しかも、文章がスピーディで、歯切れが良い。勢いのある男らしい文体が素晴らしい。この年齢層にしてこの文章を書くというのは、相当の手練であり、後輩として、学びたいものがある。

【「一粒種」柚かおり】
長年公務員として勤めてきた真面目な性格の一人息子が、突然行方不明になる。その事情を探索する母親の手記の形で綴っている。息子の恋人らしき人がいて、交際の末に息子と異なる男性と結婚していた。物語の終章で、息子が性同一性障害か、同性愛志向なのか不明だが、そうした問題で悩んでいた末の行動とわかる。いわゆる典型的な雰囲気小説で、ムードを作るのには成功している。純文学的には、半歩踏み込みが足りないかもしれない。

【「祭りの季節」難波田節子】
俳優を志す男と結婚した類子は、夫が夢ばかり追い、家庭をまかなう収入を得ようとしない。成功しない時点の「爆笑問題」の大田のような人だったらしい。離婚して女手ひとつで、娘を育ててきた娘が、片足義足の男性と結婚することを知る。男は車の追突事故を受け、妻も大怪我したが、彼女を最後まで看病したしたのが、娘でそれが縁で結婚することになったとわかる。作者の筆使いは、歯切れのよくテンポが早く、より現代的な文体になっている。人情話だが、流石に巧い。

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