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2007年9月12日 (水)

個人誌「猟」第2号(東京都八王子市)

【「退屈な旅」乾夏生】
この中篇小説ひとつの個人誌である。ごく普通の家庭の次男坊で、工業高校にいたが、化学実験の失敗で友人が怪我をしてしまう。友人の自らしたことであるが、実験仲間であった主人公は、自分の責任でないことを強調する発言をしてしまう。自分の発言で自分自身が傷つく性格がここでよく表現されている。少年の孤独な精神をていねい描いている。
 その感受性のゆえに高校を中退、エレクトロニクスの測定器をつくる町工場に住み込みで勤めるが、自らの存在の自信のなさ、社会的な順応性の不足から、上司を殴る結果になり退職するまでの話。時代を示していない、測定器のキャビネットを筐体などと表現しているところや、測定器製造の職場の様子から、1960年代~1970年代の高度経済成長期の話であろう。仕事の内容が事細かく書いてあるのが良い。時代を書かないことで、青春前期の少年の孤独な精神を昔話から切り離して浮き上がらせた効果はある。そのぶん、物語性が(なくてもいいのだが)欠ける弱さが出る。ただ、自分には、非常に面白く共感できた。
 編集後記に、遠藤明子さんの「槐」に所属していたという。遠藤さんには同人誌「文学街」の集いでお会いしている、と思ったら、お会いしたのは、遠野美地子さん(電話をくれた)ので、別人とわかった。
 自分も、18歳から約3年ほど、測定器の組立職人をしていた。その後、夜間大学を受験。職人がなんで「学士」になるのだ?といわれたものだ。無断欠勤をしたことで、そこをクビになり、アルバイトを転々としながら通学した。高度成長期で、仕事に困ることはなく、しかも夜は勉強できる。嬉しかった。マンモス大学で、教授の講義を聴いていて、時代は自分の味方だと思ったことなどを思い出す。もっと、元気だったような気がするが、これを読むと、孤独であったことは確かで、それも空元気だったかもしれないと思った。

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