詩作品の紹介 「ケイタイ日記」あんの じゅん
(紹介= 江 素瑛)
後ろを振り返りしない長女と、過去を思い出箱から出そうとした親を、面白く書かれています。互いの一生は重なる部分もあるけれども、前向きだけを歩く長女を、後ろ見しながら歩く親が追いつくことなく、距離は大きくなるばかり。
吾が子が成長するほど、離れて行く必然性を、親は目で見て嘆きしかありません。
<永遠につけ続けられるものじゃぁないんだね>ー永遠に残れるものはない、それは世の絶えず生滅ではありませんか。
<ボタンひとつで自分の数ヶ月を消去した>--消去したのは、長女の自分だけではなく、親の思いでも入っています。
ケイタイ日記 あんの じゅん
「ケイタイに日記つけてたんだけど/ けっこうがんばってつけてたんだ/ でもね/ <日記フォルダがいっぱいです>って表示が出たの/ 永遠につけ続けられるものじゃぁないんだね/ だから/ 全部消しちゃったよ/ そう 全部/ だって もう面倒になっちゃったし」
十四歳の長女は/ あっさりと/ ボタンひとつで自分の数ヶ月を消去した
「一つ残らず私の分身」と/ 消去できないデータフォルダで溢れ返る/ 私のパソコン/ ひとつひとつ開かなければ/ 中身も思い出せないのに
過ぎ去った日々の文字の羅列を/ 綺麗さっぱり払い落とし/ パタン/ ケイタイを閉じると/ 長女は私を振り返りもしないで/ 薄い光りの射す方へ歩き始めた
(詩誌「まひる」3号より アサの会 あきる野市)
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