詩の紹介 「踏む」原かずみ
(紹介者・江 素瑛)
遠い昔の記憶を辿りながら、現在を織り込んだ作品です。蒸気関車の線路か電車の線路か、どの時代でも、どの場所でも、見渡り限りなく延びていく線路、線路わきの風景は必ず子供が居ます。
燦燦な日照り、亡き祖父の棺の形に似ている、線路わきの杭の黒い影、跳びはねて遊ぶ少女。白と黒の対照的不気味がありながら、登下校の可愛い少女がそこを歩いています。少女の影は杭の影に重なって、儚い人生を暗示するかのような映像です。
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「踏む」 原かずみ
線路わきの一本の道/ 初夏の陽射しに晒されて/ 土埃の道は/ 水を飲みたいほどに/ 干上がっている
ランドセルと背中の間に/ びっしりと汗をためながら/ 少女は道にさしかかる/
白く照りかえす道に/ 線路わきに佇つ杭の影が/ 鉛を流し込んだように/ くっきりと地面に落ちている
等間隔で並ぶ黒い影/ 枕木の先端を尖らせた杭の影は/ 春に送り出した/ 祖父の棺の形に似ている/ 少女は/ 道に横たわる棺を/ ひとつひとつ踏んで歩く/ 跳ねていく少女の影が/ 杭の影に重なって/ ゆらりとくねる/ 足元から立ち上がってくる/ ざわりとしたなまなましい感覚 /少女が踏むたびに/ 次々と地面に開いていく/ 鈴なりのまぶた
祖父のアルバムを見返しながら/ 遥か遠くで/ 水晶のように光っている道をたぐりよせる/ 白い陽射しと黒い影/ 燃え上がらんばかりのコントラストが/ もう若くはない私の眼球をやく/ あの頃の少女も 今にたぐりよせる/ 暗く翳る私の胸を/ 小さなゴム靴が軽やかに弾んで/ 踏んでいく
詩誌「まひる」3号より (あきる野市)
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