文芸時評・9月(読売新聞)山内則史記者(3)
《対象作品》「風花」に始まり「下萌(したもえ)」で完結した川上弘美氏(49)の連作短編(すばる2004年1月号~07年10月号)は、結婚して7年になる〈のゆり〉と、浮気している夫との夫婦の危機、すれ違い、煮え切らない心理と行動を丁寧に描く。前作『真鶴』では非現実と現実の壁が溶解していたが、のゆりはあくまで日常にとどまり、生活感の中にある。その意味でも『真鶴』とこの連作を併せ読むと、川上ワールドのA/B面を味わえるのではないだろうか。
《対象作品》東浩紀氏(36)と桜坂洋氏(36)の合作「キャラクターズ」(新潮)は、東氏が主張する「ゲーム的リアリズム」を実践してみせた批評的小説。語りの主体がいつの間にかすり替わる前田司郎氏(30)「誰かが手を、握っているような気がしてならない」(群像)、二人称の距離感が効いている吉原清隆氏(36)「『行き先階釦(ボタン)を押してください』」(すばる)も、それぞれに面白かった。(山内則史)(2007年9月25日 読売新聞)


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