同人誌「文学街」240号(東京)作品紹介など(2)
【「傀儡の指先」荒井登美子】
作者は今年の「農民文学賞」受賞者。40歳代の「私」は、家庭の主婦。子供ふたりを育てて、夫との仲も悪くない。しかし、彼女は、20代の頃、親への反発から繁華街でホステスをしていた。そこで知り合った、年の離れた歯科医師・久木の愛人になって、長い交際をしてきた経歴がある。その後、別れた彼女は、久木を忘れることはなかった。その久木が警察が選挙違反で逮捕されたことを知る。彼女は衝撃を受け、夫を欺いて久木と旅行に行き、恋愛関係を復活させる。やがて、久木は彼女の夫に、彼女を自分の妻にしたいと談判してしまう。彼女は離婚し、久木ふたりだけの日常生活をしているところで終る。
力作である。女性の厨房の描写で、その揺れ動く情念を表現し、成功している。巧い運びで前半は、普通の不倫小説なのかなと思わせながら、後半のところで、「私」の日常生活を描くことで、人間の愛の不条理の詰め寄っている気配が感じられ、文学作品にしている。とにかく筆力がある。昔、純文学と大衆小説の間に、中間小説というジャンルがあったが、それにちかいところがある。
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