同人誌「奏」14号2007夏(静岡市)
【「春、浅く」小森新】
ドイツ文学の影響を受けた槲木という詩人青年が、若くして交通事故死する。その青年と友情をもって交際していた後輩が、詩人青年の恋人らしき女性に、交流の過程を、手紙にして語るという構成。ちょっと堀辰雄を思わせるような文体で、文学的雰囲気があって、楽しめる。槲木青年の自らの詩才への疑問や、生活と詩精神の齟齬など、いまの人はあまり深く考えないような問題意識を盛り込んであるのが、内容を引き立てている。そして、終章で、槲木青年の交通事故死が、懊悩の末の自死ではないかと思い巡らすとこで終る。ゲーテ、リルケ、カロッサなどが組み込まれているが、ゲーテならゲーテ、リルケならリルケと傾倒するものを限定したほうが良かったのでは、なにを追求して悩んでいたのか、散漫でわからないのが結局、青春文学として作品を甘くしている。
【「芹沢光治良『塩壷』論」勝呂奏】
芹沢光治良については良く知らない。ただ、三木清全集(岩波)に文芸時評をしたのを収録していて、そこで有望な若手作家のなか芹沢の名を挙げていたのを覚えていて、長寿な作家としか頭になかった。この評論を読んで、当時なぜ三木清が取り上げたのかが推察でき、興味深かった。彼の作品専門の読書の会があるのも知らなかった。宗教的色彩の強い作家なのだろうか。
【「森内俊雄『短編歳時記』ノート」勝呂奏】
作品のなかに宗教的な幻視を取り入れる作家という印象のある森内俊雄であるが、俳句に関心があるとは、知らなかった。知らないことばかりで、これも面白かった。
「奏」発行所=〒420-0881静岡市葵区北安東1-9-12、発行人=勝呂奏。
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