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2007年8月 1日 (水)

「文―BUN-」第5号・立命館大学文芸創作同好会(1)

【「月の裏側」杉山研】
僻地探索官が月に赴任し、月の住民との交流を描く。SF小説らしい。月の住民との交流を描くといっても、結局お互いに交流できないまま、終わっている。コミュニケーション不能の関係を描いたものらしい。月の人は親子断絶、ひきこもり、社会関係の作り方の巧くない人間的特性を表現したようにも読める。もうすこし想像力を働かせた部分が欲しかった。地球上の隣の家人のように描く月の人々への表現が、なんとなくユーモラスに思えた。
【「プラタナス」木林黒白】
厚志という大学生らしき若者の視点を通して、内向した情念を描く。子供の頃、天道虫を殺した記憶から、現在のバッタを集めて分解してしまう情念を中心に、好意を寄せる女性と友人とが親密になってゆくのをただ傍観するしかない厚志の、波打つ心理をからめて、暗い情念をイメージ化したもの。バッタの分解に執心するところも迫力がある。荒削りで、書き足りないところはあるが、狙った獲物に矢を射ている感じがする。プラタナスの葉が手のように思えるイメージは、それ自体は連想を呼び良いのだが、厚志の内面と外部世界との関係付けの面で、やや散漫な感じがする。
【「テンダー・ブラック」高村綾】
 小説を読むのが好きな若い女性カナエが、コーヒーショップで読書をしていると、同じ本を読んでいる婦人がいることに気付く。謎の貴婦人と店長を巻き込んで、文学好きだけがわかる作家と、ドストエフスキーのラスコリニコフやゲーテだったか「若きウェルテルの悩み」など作家がが生み出した主人公を、題材に挟みながら、物語が進行する。素朴なつくりの同人誌に似合わないスマートな内容とセンスが発揮され、面白く読んだ。

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