宮城まりこさんと吉行淳之介(1)
吉行淳之介の作品には宮城まりこさんとの関係を描いたらしいものがいくつかある。「闇の中の祝祭」、「赤い歳月」、「湿った空乾いた空」に登場するという。ふたりは、大田区の北千束に10年ほど住んでいたらしい。近くの洗足池は散歩コースだったようだ。その後、上野毛に引っ越す。この間、夫人と宮城さんの関係で苦労したであろうことが想像できる。吉行はこの関係をこう書いているという。
「M・Mに出会ったことは、作家の私にとって幸運であったといえる。小説の材料を掴むために、私が彼女に接近を計ったのだという噂(文芸関係のうわさではない)を聞いた事があるが、その噂はもちろん間違いである。そういう愚かなたくらみを持つ人間は、おそらく小説家にはいないだろう。なぜならそういう形で書いた作品はロクなものになるわけがないから。
私はM・Mに惚れたのであり、惚れるということはエゴイズムにつながる部分もあるが、功利的な気持ちは入り込む余地がない。三十四年の私の作品「鳥獣虫魚」の評で小島信夫が『作者の青春が復活した』という意味のことを書いたのを記憶している。たしかに、一人の女性に惚れたとい情況が、私の文章にうるおいを持たせた。言葉を積み重ねて作品をつくりながら私ははっきりと感じていた」。(つづく)
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