「かいだん」第56号(東京・小金井市)作品紹介(1)
【「看護日誌」仁井繁】
長年連れ添った妻の病気看護から死するまでの記録。妻であり母である一人の市民の死が、その無念と悲嘆がずしりとした重みを持って伝わってくる。私の記録でありながら、人間すべてに普遍性をもつ作品。
【「ワン公の死」仁井繁】
妻の死を追うように死んでいった犬。死を軸に生ることの価値を意味づけている。死に普通に向き合うことで、同人誌ならではの文芸味が発揮されている。
【「少年」孟七三】
昭和初めの頃の瀬戸内の島の学校の記憶と、東京生活と戦争での空襲の話。個人の中の大いなる記憶である。壺井栄だったか「24の瞳」の舞台のイメージがある。
【「漢江」田川肇】
戦前、朝鮮半島で過ごした作者の郷愁の記憶。川で洗濯していた主婦が、落ちておぼれる描写が光る。何気ない生活のなかに死が潜んでいるこの世界を感じさせ、生きていることの貴重さを思わせる。
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